一面の白銀の世界――。言葉を目にすれば綺麗な景色が思い浮かびますが、その中に身を置き生きていくのは大変です。そんな美しさと厳しさのある「冬を舞台にした異世界の作品」を4つ集めてみました。寒い冬にわざわざ寒さを感じるような作品を読まなくてもいいじゃないって? いえいえ、暖かい部屋で食べるアイスが特別美味しいのと同じで、外が寒い時にこそ、ぬくぬくとした中で読む冬の作品はサイコーの贅沢なのです。異世界ファンタジーという架空の作品らしく、どれも本当に寒い世界が舞台です。雪や氷の描写も見事で、思わず両腕をさすってしまいそうになるほど。でも安心して下さい。雪が解けて春になるように、初めは寒さの描写に圧倒されても、読み終えたらほっこりとした気持ちになれるはず。ぜひ部屋を暖かくしてお読み下さい。

ピックアップ

旅人と魔法人形による、雪に閉ざされた街での冒険譚

  • ★★★ Excellent!!!

旅の途中で通りかかった長く冬が続く街。旅人のリズと魔法人形のタルトは、そこで泥棒騒ぎに巻き込まれます。事件解決のために氷に閉ざされた城に向かった二人は、果たして犯人を捕まえることができるのか――。

水晶採掘の街に伝わる青年と氷の女王の娘の恋物語を背景に、主人公たちが冒険を繰り広げます。迷路あり、謎解きあり。もちろんファンタジー要素もバッチリ。きっと最後はこうなるんだろうなと安心できる反面、謎解きではそうきたかぁと思う所もありました。剣と魔法のバトルじゃないファンタジーをお探しの人にもお薦め。

主人公の相棒が抱えて歩けるサイズの人形という異色の作品。でも魔法人形なので、動くし喋れます。キャラが生き生きしていて、二人の親密さや信頼感がよく伝わってくるので、バディものとしても楽しめます。どうして二人が一緒にいるのか、なぜ旅をしているのかは全く語られませんが、長い旅の途中を切り取ってきたようで、逆にそこが良いです。


(「白銀の異世界」4選/文=藤浪保)

愛されてしまったが故の悲劇と、愛する人がいたからこその奇跡

  • ★★★ Excellent!!!

生き物が住めない極寒の地、キュラス。その範囲は拡大し、ついに村と街を飲み込んだ。原因を探るべく派遣されたのは、想い人がいることでトラブルを起こした天才二人。雪の中を進む二人は、やがてキュラスが生まれた理由を知る。そこには悲しい「愛」があった――。

キュラスの謎に立ち向かう魔術の天才ルベリオンと、剣術の天才オーギュストが、なぜキュラスに派遣されるに至ったかは作中で徐々に明らかになっていくのですが、その明かしていく過程が良かったです。エピソードの頭に時々出てくる詩のような表現が綺麗で好き。

メインの登場人物たちにはそれぞれに愛する人がいて、だからこそ立ち向かえるし、途方もない現象も起こしてしまうし、悲劇にも繋がってしまいます。最後、自分の愛した人が愛し返してくれるのは簡単な事ではないのだな、と思わされる作品でした。


(「白銀の異世界」4選/文=藤浪保)

血のつながりがなくても家族は家族

  • ★★★ Excellent!!!

不思議な生物ミトラのいる世界で、主人公ら三人は旅の途中、雪の中で女性を助ける。彼女は街を守る為に犠牲になったはずの人物だった。女性が地上に現れた理由には、ミトラとの絆があって――。

ミトラという謎の生き物の設定がいい。ホッカイロになったり、冬をもたらしたり。主人公だけがミトラと言葉を交わせるのというのもいい。こういう不思議な生き物が起こす事件にまつわる作品、大好物です。

愛しているからこそ一緒にいたいし、愛しているからこそ幸せでいて欲しい。それは家族愛でも同じなのだと思わされる作品。

シリーズ物ですが、この作品から読んでも全く違和感はなく、シリーズの他の作品も読みたくなりました。


(「白銀の異世界」4選/文=藤浪保)

寒い。とても寒い。とにかく寒い。マジで寒い。

  • ★★★ Excellent!!!

許されざる恋をしたノーウェルは、凍てつく雪原を歩く。ただ愛する人といたいがために、かつて英雄が成し遂げたという踏破を目指すが、その道程は過酷なもので――。

ただひたすらに雪の中を歩いていくというだけの作品(※違います)なのに、雪や氷の描写が緻密で、まるで本当に自分がそこにいるような、主人公に乗り移ってしまったかのような臨場感があります。それはもう、荒く細い息づかいや、喉をひりつかせる冷気まで感じられるほどです。体に感じるのは寒さと言うよりも、痛さと言った方がいいかもしれません。まさに「白銀の異世界」に相応しい作品だと思います。

過酷な環境にくじけそうになりながらもノーウェルは歩みを止めません。それはひとえに愛する人と一緒にいたいがためです。氷雪の表現と共に、その必死さが印象に残る作品でした。


(「白銀の異世界」4選/文=藤浪保)