寒い。とても寒い。とにかく寒い。マジで寒い。

許されざる恋をしたノーウェルは、凍てつく雪原を歩く。ただ愛する人といたいがために、かつて英雄が成し遂げたという踏破を目指すが、その道程は過酷なもので――。

ただひたすらに雪の中を歩いていくというだけの作品(※違います)なのに、雪や氷の描写が緻密で、まるで本当に自分がそこにいるような、主人公に乗り移ってしまったかのような臨場感があります。それはもう、荒く細い息づかいや、喉をひりつかせる冷気まで感じられるほどです。体に感じるのは寒さと言うよりも、痛さと言った方がいいかもしれません。まさに「白銀の異世界」に相応しい作品だと思います。

過酷な環境にくじけそうになりながらもノーウェルは歩みを止めません。それはひとえに愛する人と一緒にいたいがためです。氷雪の表現と共に、その必死さが印象に残る作品でした。


(「白銀の異世界」4選/文=藤浪保)

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