中学生の加賀屋志穂は、娘を置き去りにして勝手に北海道で牧場を始めた父と4年ぶりに同居することに。都会暮らしから広大な大自然に囲まれての新生活、だが、そんな変化が気にならないほどの衝撃を志穂が襲う。牧場の馬が喋っている言葉が聞こえるのだ! さらに馬も志穂の言葉を理解している。こうして、馬と会話ができるという特異すぎる才能を持った志穂は馬たちの願いを叶えるために、そして競馬の世界に足を踏み入れる!
まず素晴らしいのは競走馬それぞれのドラマである。志穂が世話をする馬たちには順風満帆の馬など一頭もいない。そんな燻っていた馬たちが志穂との交流を経て自分の走る道を見つけ出していく過程が実に良い。また馬だけでなく騎手を目指す学校の先輩を始め、牧場で働く人々や、馬主たちに至るまで、登場する関係者一人一人が印象的なエピソードを持っており、大変読み応えがある。
そして特殊な才能は持っていても馬の世界は初心者の志穂の目線で話が描かれるため、競馬を知らない人でも競馬の世界をしっかり知ることができるのが大きな特徴。有名なレースの種類や馬券の買い方といった基本はもちろん、騎乗のコツや出産時の注意など普通の作品ではあまり触れられないところまで、競馬という文化そのものを余すことなく描こうとする熱意に溢れている。
競馬ファンはもちろん、ウマ娘などの影響で、競馬に興味を持ち始めた初心者にも自信を持ってオススメしたい作品だ。
(「人生を賭ける人たち! ギャンブル小説特集」4選/文=柿崎憲)