この文章は、美酒だ。久しぶりに“味わうように”小説を読んだ

 この作品には、己の愛を示すために苦難へ挑む男と、男を信じて待つ清き娘がいます。2人の間にある深い愛情と、その愛情を試す試練。その2つの要素が、たしかな筆力によって圧倒的なリアリティとして迫ってくる。これは、そんな小説です。

 私が軽い文体のネット小説に慣れていたからでしょうか。最初に冒頭の数行を読んだとき、思わず眩暈がしました。これは読み進めるのが大変だと、そう思いました。
 しかし、実際に読んでみればこれが“読みやすい”。気がつけば眩暈が酩酊感に変わり、この文章をもっと読ませろと叫んでいました(心の中で)。そして、気がつけば読了していました。これがこの作品を「美酒」と表現した理由です。

 現在のネット小説の風潮に真っ向から喧嘩を売るような、深く練りこまれた文章。それは、もしかしたらネット小説に慣れた人間にとっては「うっ」と呻いてしまうものかもしれません。ですが、それをこらえてまずは全体の1/3まで読んでみてください。

 一文が次の一文への呼び水となり、積み重ねられた描写が圧倒的な臨場感を伴って心に迫ってくる快感は、筆舌に尽くしがたい。情景を描き出す美しい文章に心が躍る。私には絶対に書くことができない“精緻な文章”であるがゆえに、羨望と感嘆の念を禁じえません。

 この作品はもっと多くの者が味わって然るべき小説だと思ったので、レビューをさせていただきました。

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