物語にもいろいろありますが、女性の主人公が活躍するお話がとても好きです。
悪役令嬢、聖女に王女。お仕事を頑張る女の子や、青春を謳歌する女子学生。憧れたり、共感したり、ドキドキするシチュエーションを覗き見する気持ちになったり、等身大の女の子たちが活躍する様にはとても元気を貰えます。
 そんな女の子たちが生きる世界の空気や風景まで濃厚に感じさせてくれるような、ぎゅぎゅっと濃い世界観の作品を四つ選ばせていただきました。
亜熱帯を思わせる、熱く湿った空気を感じるような国、はたまた英国を思わせる先進科学と魔術が奇妙に混ざりあったような国、サーカスと因習の物語のような異国。そして、遊牧民達の駆ける熱砂の土地。どの場所でも頑張って生きていく女の子たちの姿は尊く胸を打つものです。応援しながら読み進め、ふっと息をついたその時に異国の香りが鼻を過るような、そんな作品達をどうぞお楽しみください。

ピックアップ

使い魔猫を片目に、子宮に魔女を。傘を被った呪い師はゆく。

  • ★★★ Excellent!!!

胴布に筒袴。編笠を被った姿。米麺を啜り、水牛車に乗る。
東南アジアを思わせる文化の土地で、モノの怪退治を生業としているらしい主人公は金の髪に琥珀の目、そしてその片目は猫の瞳。彼女がこの亜熱帯の土地にやってきたのには、わけがあって――

描かれる風景はたしかな土の香りがし、呪術の仕組みの土俗の気配。対するそれに絡む主人公のバックボーンはしっかりと土台のある西洋魔法物語のそれで、その緻密さが世界の広がりを感じさせます。
主人公、ユエの抱える事情は重く、失うものも多いだろうことを想像させつつも、片目に宿る相棒との掛け合いの軽妙さでするっと読まされてしまいます。
リールーの頼もしさは素晴らしく、この王族猫が相棒で、覚えていてくれることがなんと心強いのだろう、とどれほど思わされたことか!

起こる事態も一捻りが効き、事件のさなかに主人公が口にする口上の、女性の体の仕組みへの優しい目線の心強さと格好良さは震えるほど。

この作品は連作短編の一作目にあたり、主人公の足跡を追って読み進めてもいいでしょう。

ユエと相棒の道行きを追いたくなること請け合いの作品です。


(「魅せる世界観×応援したくなる女の子」4選/文=渡来みずね)

「血」と、呪縛。そして、二つの強さの物語。

  • ★★★ Excellent!!!

湖水地方に建つ寄宿舎で育つ主人公は魔術を使わせてもらえない「落ちこぼれ」。彼女の元にある日宮廷魔術師の男が訪れ、彼女は女王の「娘」であると告げる――

そんな説明をしてみれば、目くるめく絢爛な物語が思い浮かびますが、さにあらず。
主人公は激痛を伴う致死性の遺伝病を患い、死を逃れるために女王の継承権を手に入れねばならないと告げられ、もう一人の女王候補との継承権争いに身を投じることとなります。

彼女に関わる男たちは美しく有能で、それと天秤にかけてもどうしようもないぐらいことごとく女王の思い出に呪縛された者ばかり。女王に重ねられ、戸惑いながらも生きるために柔軟に立ち回る主人公のしなやかさには、そこだ、やれ!という応援を惜しまず捧げたくなります。

そこに隠された秘密もあり、明かされていく経緯はハラハラと息を詰めるようなもの。

舞台は、汽車が走り、また魔術があり、遺伝情報を編集し、データサーバーめいた『門の島』をもつ神聖王国アケイシャ。想像を刺激する単語の使い方には胸を鷲掴みにされること間違いなし。硬質な筆致で綴られる、美しいと悟れるのに、絶対に曇天だと確信できるような風景描写にもまた一見の価値ありです。


(「魅せる世界観×応援したくなる女の子」4選/文=渡来みずね)

古びた物語本を開いたような、九日間の物語。

  • ★★★ Excellent!!!

幾人もの登場人物の視点で描き出されるのは、タシャと呼ばれる少女がサーカスの下働きとして、餓死寸前の身の上で生きなければならなくなったその事情に至る出来事。
そして、彼女がなんなのかと、一人の吸血鬼が彼女に手を伸ばすまでの経緯です。

描き出される物語のイメージはおとぎ話のようながら、ひどくシビアでもあり。美しいばかりではなく陰惨で無慈悲な現実と、人ならぬものが息づく古い伝承のような世界が同じだけたっぷりと描き出されます。

綴られる顛末は少しだけ突き放すような静かさで淡々とした手触りではあるものの、目を覆いたくなるほど虐げられたタシャが初めて人として扱われたときの心の動きと、抑えた筆致ながら描き出される心の揺れは鮮やかで、読めばなんとかして幸せになってほしいと願ってしまうことでしょう。
また、人ならぬものの心のかたちや生態の描き出し方が見事で、別の生き物の道理に、理解しきることは出来ないけれどそういうものなのだろうと納得させられる説得力があります。

幻想的な余韻をたっぷり味わえる作品です。


(「魅せる世界観×応援したくなる女の子」4選/文=渡来みずね)

臆病で、しかし不器用な勇気を持ったアイシャは一歩また一歩と前に進む!

  • ★★★ Excellent!!!

砂漠の帝国の第十六皇女として生まれ、窮屈に生きていくはずだったアイシャは、誇り高き赤の氏族の族長、女傑ナージファの養女となり、砂漠の民の一員となります。
血のつながらぬ、しかし紛うこと無く母娘としての絆をナージファと育んだアイシャ。臆病ながら誇り高き赤の氏族として育った彼女はある日従兄弟と集落を抜け出し……そして大きく運命が動き出すのでした。

鮮やかな砂漠の光景と息遣いを感じるような各氏族の描写。精神は水となり、肉体は砂に帰るという輪廻思想。そして、本当に死すれば砂に帰るという、砂竜と……全ての竜の母たる天竜という存在。滅んでしまった故郷と、その真相。
異国情緒たっぷりで、ともすれば重厚になるテーマのこの作品ですが、生き生きとした掛け合いがとても豊かであるため、何度くすっとさせられたことでしょう。

少し臆病で引っ込み思案なアイシャ。それでも決意して一歩一歩前に進んでいくさまは、たしかに彼女が誇り高き赤の竜使いなのだと応援したくなる、そんな物語です。

先日本編が完結したこの作品ですが、嬉しいことにまだまだ続きの後日談が綴られる様子。今こそ一気読みするチャンスかもしれません。


(「魅せる世界観×応援したくなる女の子」4選/文=渡来みずね)