みなさま健やかにお過ごしいただけておりますでしょうか? すっかり健やかさとの縁を絶たれておりますわたくしでございます。
 カクヨムさんの公式連載としてやらせていただいている『“すごい創作術”を駆使したら、新人賞は取れるのか!?』は毎週締め切りがあるわけですが、あれこれ創作術を盛り込んで内容を構築して岡田くんに見てもらって修正して解説を書き加えて……という作業はなかなかにタフな戦いです。でも、これによってご投稿くださっているみなさまのお気持ちを少し知れた気がして、奮えていたりもします。おこがましいながら「いっしょにがんばっていきましょうぜ!」的な感じですね。
 さて。今回は新規ご投稿作のご紹介。4作とも思わず「目が止まる」おもしろさでした。ネタのひねりかたがお見事で、展開に仕掛けが施されていて、華のある見所を描き出されている。どれを読んでも得しかない一作ぞろいですので、どうぞお楽しみをば!

ピックアップ

寄付から始まる異世界交流

  • ★★★ Excellent!!!

 世界に突如としてダンジョンが誕生した。挑むべきものを得た人類は当然奮起したが、踏み込む資格を持つのは適性やスキルを有する子供のみだった。そして数十年後、資格なき大人である佐上治臣はサラリーマンとして平凡な日常を過ごしていたが……“異世界平和と摂理支援の会”を名乗る妖精に寄付を迫られ、その日常からわずかに踏み出す。

 まず注目していただきたいのはアプローチです! 異世界からはみ出してきた妖精さんによって、治臣さんが日常からはみ出すチャンスを得る。無資格だった彼にとってその「はみ出し」は心躍らせるものなわけですが、それははみ出すどころかその先にある凄絶な異世界へ踏み込む一歩だったことに気づかされていくのですよ。

 やわらかな入口から徐々に固く澄まされていくストーリーライン、魅せられずにいられません。そして同時に、しっかり形作られた舞台世界とキャラクターの妙に唸らされます。

 ありがちならぬ、ここにしかない異世界を存分に味わわせてくれる一作、あなたもぜひお踏み込みください。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

その技こそは神が彼女へ与えたもうたギフトだった

  • ★★★ Excellent!!!

 佐藤奈美は初デートを前に浮かれる姉を見、気づいてしまう。耳が汚い! そしてなぜか耳かきをしてやることとなり、開花させてしまうのだ。天賦と呼ぶよりない耳かきの才を。彼女の耳かきは人々を絶頂へ導いていく。恋の物語を脇に添えて……。

 奈美さんは耳かきの天才です。そのネタだけでコメディとして成立しているのは著者さんの筆力あればこそなのですが、それだけじゃあありません。「奈美さんの耳かき」が自身やお姉さんの恋愛劇にしっかり軸として据わっているのですよね。

 奈美さんはともかく、お姉さんにとっては他人の技ですよ? それが彼女自身の物語に落とし込まれているのですからすばらしい。そしてなにより、奈美さんが自分のギフトの理不尽さに打ちのめされ、他人へ幸せを与える代わりに不幸せを負わされる有様——言うなれば天才ゆえの悲哀がたまらなくおもしろいのです!

 耳かきから始まり耳かきに終わる、癒やされることなき癒やしの物語、笑い泣かずにいられませんよ!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

カレーすなわち恋、彼女はその真実を噛み締める

  • ★★★ Excellent!!!

 大学在学中になんとしても彼氏を作る。友人と盟約を結んでいる琉璃には意中の男子、高島がいた。友人に恋心をばらされるという最悪の出だしを経て、彼の好物がカレーであることを知る琉璃。そこから彼女のカレー探求が始まり、やがて一軒の中華料理屋で出される、メニューにはないカレーライスへ辿り着くのだ——高島が愛する至高の一杯へ。

 この作品、物語の大半がカレーを食べる琉璃さんで占められています。その中に詰め込まれた細やかな情景描写と濃やかな感慨もまた、基本的にカレーへ向けられているわけなのですが、しかし!

 それらが転機を迎えると同時、一気に雪崩れ込むのです。すなわち高島君との物語へ。その瞬間、読者の中でここまで描き込まれてきたすべてが意味合いを変じるのですよ。

 そう。文字にされた描写と文字にされなかった行間がパズルピースのように噛み合って、凄まじいまでの説得力に成り果せる。一途なヒロインを芯に迎えた恋物語へ!

 外連味の向こう側にある正解の味はまさに極上。どうぞご賞味あれ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

最高の健康増進法を求めて……!

  • ★★★ Excellent!!!

 年齢は中年、加えて持病あり。そして年齢を増すごとに体重も増えてきて……元気な還暦を目ざすには体重を減らさなくては! 呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)は健康増進のため、立ち上がる。

 持病や家系の問題から健康を意識するようになった著者さんの奮闘記です。電気刺激で筋肉を動かす器具を使って筋力アップを計ったり、ジムへ通ったりサプリを試したり……結果から言えば、なかなかうまく行かないお話が多いのですが、だからこその知見をもたらしてくれるのです。「過剰とまでは行かずとも、余剰な負荷をかけても効果は出ない」。

 焦燥に駆られると人間は無理をしがちなもの。その無意味を、まさに身をもって呂兎来さんは説かれています。懲りることなく少しずつ。かるい文調で紡がれた経験則は、おもしろくありながらずばっと真理をもたらしてくれるのですよねぇ。

 健康を気にしてみようかなと思っておられる方はもちろん、まだ気にするほどじゃないかなという方もどうぞご一読の上、程よい健康生活を目ざしましょう。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)