今日こそは動線上にあるラーメン屋さんじゃないお店へ行こうと思い定めて外へ出て、動線から外れる面倒さに耐えられないばかりに結局今日もラーメンを食べてしまうおじさんです。
話は変わるのですが、書き物をされるとき、みなさまは音楽を聴かれますか? それとも無音ですか? 私は書き物のジャンルによって聴いたり聴かなかったりです。物語的なものにかかるときは音楽ありのほうが捗るのですけれども、こうしたレビューへかかるときは音楽がうるさくなってしまうのですよね。なぜかはよくわからないながら、レビューでは書いている間ずっと、取り上げさせていただいている作品と向き合っているからかも? そんなことを思ってみたりしました。まあ、マルチタスクができない超シングルタスクおじさんの戯言ですねぇ。
と、そんなことはどうでもよろしいー。今月はバラエティなジャンルから選ばせていただきました新作4本、ご紹介させていただきます!
銀座2丁目の片隅にある小さなダジャレ・バー。それは高橋聡が突然姿を消した恋人から受け継いだ物件で、彼が客にダジャレを売って活計を立てる場で、そして夜な夜な闘士たちがダジャレを競い合わせる地下コロシアムへの入口であった。諸々ありつつも恋人を待ちながら暮らしていた聡だったが、とある騒動をきっかけとし、その日々が粉砕される!
ひと言で表すなら「シュール」なお話です!
聡さんを始めとするキャラクターたちはハードボイルドです。ニヒルでクールなタフガイで。そして繰り広げられるアクションは映画さながらです。でも! その中心にあるものはダジャレなんですよねぇ。
この愉快さだけでもオチがつく感じがしてしまうわけですが――そこへもうひとつ大きな爆弾が投下されるのですよ。そうです、元恋人の行方ですね。
これ以上なく賑々しい設定群へさらに投下されてしまうミステリー! この物語はいったいどこへ向かうのか!? 真のオチはあなたご自身の目でご確認ください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)
新大陸にて発見された迷宮。魔物ひしめくその奥には莫大な財宝が眠っていて――一攫千金を目ざして集まり来た冒険者はその周辺域に生活の場を形作り、果てに生み出されたものこそ「迷宮都市(シティ・オブ・ダンジョン)」だ。そして、そんな都市で今日、科学主義のドワーフ、グレン・リベットと女魔法使いのストラス・アイラが、冒険譚ならぬ事件譚を綴る。
魔法とミステリーの相性が最悪なのは言わずもがな――どんなトリックも魔法で大概解決できてしまうので――です。実際アイラさんは魔法使いで、言わばミステリーの敵。ですがそこへリベットさんという科学主義者、つまり魔法の敵が投入されることで、起こるのですよ。思いがけない化学変化が! ファンタジーをミステリーたらしめている構造の妙も魅力ながら、このふたりの「敵対関係」、実にすばらしい。しかもその関係性こそが、リベットさんの推理の論理的痛快さを際立たせているのですからなおたまりません。
名作ミステリーのパロディ要素も楽しい、科学と魔法のミステリーです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)
目明しであった丙吾はケチな所業の積み重ねから十手を取り上げられ、あげく後釜へ座った男に女房までも奪われた。なんとか目明しに戻りたいと願う彼だったが、その中で昔なじみとの出会い、彼のために世を騒がせている強盗団とひとりで対することとなる。
丙吾は目明しにありがちな、(同心や与力という偉い人がバックにいるが故の)権力を振りかざして縄張り内の店から金をせしめるごりごりの小悪党です。
そのケチさと嫌な奴っぷりは本当に容赦なし。だからこそ目明し時代からの因縁の相手、鹿蔵との思わぬ再会から始まる心情の変化――散々に無様を重ねてきた小悪党が、歌舞伎の主役が見得を切るかのように男の矜持を魅せる、まさにその瞬間へ胸を打たれるのですよね。
そして小悪党らしさを失うことのない、だからこそに心がぬくもるエンディングは、読後まで本作ならではの味わいを噛み締めさせてくれるのです。
時代物好きの方だけでなく、人間ドラマ好きな方にもお勧めいたします。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)
2016年の12月29日より無期限活動停止へと入ったヒップホップユニット“HOME MADE 家族”。そのメンバーであるKUROことサミュエル・サトシは、結婚式の司会を引き受けたことをきっかけに名古屋のプロバスケットボールチーム『名古屋ダイヤモンドドルフィンズ』のホームコートMCへ就任した。ラッパーとバスケ、真の異文化交流劇がここから始まる!
プロのラッパーがバスケのMCに! それだけでもうおもしろいのですが、正直な話、唸らされました。だって、基本の流れがしっかり追われていることはもちろん、心情――バスケという未知への怖さや疑問が一気に覆されてときめきや昂ぶりを咲き誇らせる、そんな華やかさが表されているのですから。
そのワードセンスの輝きこそが、さまざまなエピソードをより深めますし、盛り上げます。少年マンガさながらな味わいでリアルを綴る、これはまさにパンチラインですね。
ラップもBリーグも知らなくて大丈夫! ひとりの男の奮闘記をぜひ見届けてください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)