ほんのささいな約束が、小悪党をほんの一時男へと成り上がらせる

 目明しであった丙吾はケチな所業の積み重ねから十手を取り上げられ、あげく後釜へ座った男に女房までも奪われた。なんとか目明しに戻りたいと願う彼だったが、その中で昔なじみとの出会い、彼のために世を騒がせている強盗団とひとりで対することとなる。

 丙吾は目明しにありがちな、(同心や与力という偉い人がバックにいるが故の)権力を振りかざして縄張り内の店から金をせしめるごりごりの小悪党です。

 そのケチさと嫌な奴っぷりは本当に容赦なし。だからこそ目明し時代からの因縁の相手、鹿蔵との思わぬ再会から始まる心情の変化――散々に無様を重ねてきた小悪党が、歌舞伎の主役が見得を切るかのように男の矜持を魅せる、まさにその瞬間へ胸を打たれるのですよね。

 そして小悪党らしさを失うことのない、だからこそに心がぬくもるエンディングは、読後まで本作ならではの味わいを噛み締めさせてくれるのです。

 時代物好きの方だけでなく、人間ドラマ好きな方にもお勧めいたします。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)