その技こそは神が彼女へ与えたもうたギフトだった

 佐藤奈美は初デートを前に浮かれる姉を見、気づいてしまう。耳が汚い! そしてなぜか耳かきをしてやることとなり、開花させてしまうのだ。天賦と呼ぶよりない耳かきの才を。彼女の耳かきは人々を絶頂へ導いていく。恋の物語を脇に添えて……。

 奈美さんは耳かきの天才です。そのネタだけでコメディとして成立しているのは著者さんの筆力あればこそなのですが、それだけじゃあありません。「奈美さんの耳かき」が自身やお姉さんの恋愛劇にしっかり軸として据わっているのですよね。

 奈美さんはともかく、お姉さんにとっては他人の技ですよ? それが彼女自身の物語に落とし込まれているのですからすばらしい。そしてなにより、奈美さんが自分のギフトの理不尽さに打ちのめされ、他人へ幸せを与える代わりに不幸せを負わされる有様——言うなれば天才ゆえの悲哀がたまらなくおもしろいのです!

 耳かきから始まり耳かきに終わる、癒やされることなき癒やしの物語、笑い泣かずにいられませんよ!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

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