夏のカクヨム公式自主企画、ついに結果発表です。応募総数400作品、カクヨムユーザーの皆さまのノリの良さを肌で感じた企画でした。
元ネタの幅広さはもちろんのこと、舌を巻くクオリティの作品も多く、4作選び取るのは至難の業。
せっかくなので、選には漏れたものの面白かった作品も、じゃんじゃん紹介いたします!ぜひ、リンクから作品に飛んで、ご覧くださいませ。
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『僕の妻は元亡者』村の因習で、死者と形だけの婚礼を結ぶ「冥婚」をした少年の行方とは。素晴らしく気味の悪い一作。
『ジジ泣きBABY』枯れ専女が爺を求めて三千里、赤子になるなんてナンセンス! と子泣爺に迫る勢いの良いコメディ。
『吉作落とし2022』中々に救いがない原作を、さらに濃く絶望で味付けした理不尽なサイコホラー。
『見上げ入道見こした』見上げ入道vsバリキャリ企業戦士のスリリングな渡り合い、ハードボイルドな結末。
『転生したらこぶとりじいさんの世界だった』ダンサーたちのアツいバトルが今、幕を開ける……!
『ミート・マン』本丸御殿を舞台に侍たちがてんやわんや、極めてシュールなのっぺらぼうvs傑物・徳川家康、少年マンガ風味。
『竹砕物語』マッスルを希求する姫、それに応える公家、目指せ筋肉の園。
『奈良県むかしばなし・奈良島太郎』落ちこぼれ大学生による現代版浦島太郎、やってることクズなのに、なんかちょっといい話。
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あらためて、応募作品を書いて下さった皆さま、読んで応援して下さった皆さまに、感謝を申し上げます。ありがとうございました。
冒頭から突然謎のSF世界にぶちこまれる本作、どうやら、主人公の発言のみを自動的に記録した「オートログ」なるものを読まされている、という設定のようです。
「いやいや、そういうアンドロイドギャグはいいから」とか書いてあっても、肝心のギャグの中身はわからない。そんな独り語りの落語のようなリズム感と、SF的世界観の奇妙な融合がクセになります。
いわく、「マブーのお尻の色」あるいは「惑星ゴゴゴの人工太陽の色」をした、”ある地球の食べ物と形がそっくりな何か”が見当たらないらしく……。
一見、意味わからん固有名詞の羅列なんですが、あらためて「あの桃が、流れることになった物語」というキャッチコピーをたしかめると、だんだん理解が追いついていく。
「桃太郎」本編の前日譚として、「なぜ赤子を収容した桃が川から流れてきたのか」にフォーカスして日本昔話要素を吹き飛ばし、突飛な物語を書き足しているのが面白い。
謎の登場人物たちが謎の世界観で暗躍する怪作。作者の造語センスがピカイチで、ひたすら垂れ流されるモノローグから事態を読み取らせる筆力にも光るものを感じます。オチの付け方にもニヤリと笑ってしまいました。
突然ですが、皆さんはゲームで裏技を使ったこと、ありますか?
私がクラスの物知りな友達から「裏技」を教わって、BGMの狂った、真っ暗な空間に飛び出た時には、興奮すると同時に、ゾワっとしたのを覚えています。
本作の舞台はメタバース。高専に通うエンジニアの卵、伊織、聡太、十夜の悪友三人組は日々、聡太のハッキング能力を活かして、仮想現実でのイタズラにご執心。
ある日、メタバースの「禁止エリア」に潜り込んでみると、突然現れた古い木造の廊下の突き当りには木戸があって、「頑丈そうな太い鎖と南京錠がいくつも掛けられて」いて……。
この時点で物凄く嫌な予感しかしないのですが、三人はもちろん、意気揚々と鍵をこじ開け、奥に進みます。
現れたのは、河童。この河童の描写がまた気味が悪くて素晴らしい。今までゲームで出会ってきた、妙にリアルな化け物たちの記憶が蘇ってブルっとします。
相撲がしたいという河童の申し出に乗り気の十夜を、伊織たちは止めようとしますが、十夜は「負けてもメタバースの中だからログアウトすればいいんだよ」と取り合いません。
果たして、本当に「ログアウトすればいい」ものでしょうか……?
ゆるキャラの印象が強い「河童」という妖怪を、令和の時代にアップデートさせ、新たな怪異として書き換えた一作です。
少女サダは、代々、屋敷に植わる梨の大樹を大切に守ってきた家の娘。ある日、ふと大樹に声をかけると、どこからか男児の声が返ってきて、二人は言葉を交わし始める。
月日が過ぎるうち、サダが梨の樹に恋をしているらしい、との噂も流れ、気味悪がった家族もサダを樹から遠ざけようとするものの、彼との交歓は、すでにサダにとってかけがえのないものになっていた。ついにサダは、彼に会うため、時間も場所をも越えた、長い旅に出る……。
幕末の娘が平安の皇子を目指して時代を遡る、1000年を跨いだ旅路を、たった4000字でここまで濃密に描ける作者さんの力量に脱帽です。
この作品は、遠野物語『寒戸の婆』が下敷きに置かれていますが、原作は「少女が梨の木の下に草履を残して、しばらくののち老婆になって戻り、またどこかへ消える」という部分だけ。
その裏側にある少女の人生を、皇子と村娘のラブロマンスとして、歴史上の人物まで組み込んでつくりあげているあたり、いくらでも深掘りできる設定が眠っていそうです。
詳しく、長く書き込んだバージョンも読んでみたくなる……!
最後に、豊かな言葉遊びの数々にもご注目。タイトルの「カコイナシ」はもちろん、物語の末尾にもちょっとした仕掛けがあるので、どうかお見逃しなく確かめてください。
「ぽっ、ぽぽっぽ、ぽぽ……。」
「俺」は、ここ何日か、深夜にそんな声を聞いている。2階の窓からのぞく、黒髪にのせた帽子。怖いとは言いながら、主人公はそんな怪異に惹かれてもいるようだった。
視線に気づいたのか、怪異がこちらを振り向く。ぞっとして窓に背を向けると、枕元の携帯、Twitterにポコンと通知が。
『やっぱり、私に気付いていたんだね』
ヒィーーー怖い。本家、洒落怖の「八尺様」はコミュニケーション不可能な、見つけちゃうと襲ってくるタイプの呪いですが、TwitterのDMを介して言葉を伝えてくるこの八尺様もふつうに怖いです。
ネタバレを避けて面白さを紹介するのが難しいんですが、八尺様の特徴とされる白いワンピースと帽子って、考えてみたら夏っぽい、爽やかな装いですよね。
本作はそんなところから、八尺様に”ある設定”を付け加えて、主人公と八尺様の関係性を描き出している作品です。とはいえ、ずっと一人称視点なので、「八尺様」の中身って、ほんとうに主人公の信じている通りの存在なのか……? と、とても不安になります。一粒で二度怖い。