何度も同じ時間を繰り返すことで、未来に待つ困難を乗り越えるループもの。皆さんはループものの主人公のような能力があったら何をしますか? とりあえず僕はスプラトゥーン3を控えて、もっと余裕のあるスケジュールで仕事を進めるかな……。そんな与太話はさておき今回は誰もが一度は憧れたループもの特集。いずれも一筋縄ではいかない曲者揃い。個人ではなく全人類規模のループを扱った作品から、ループ開始地点から秒で死亡の超高難易度なダンジョン探索もの、あるいはループを止めるためにおっぱいを揉まなければいけないラブコメや、ループが何の救いにもならない極限状況を扱ったものまで、実に多彩な内容を取り揃えました。是非あなた好みのループものを楽しんでください。

ピックアップ

もし地球上の全員が同じ一日を繰り返し始めたら……?

  • ★★★ Excellent!!!

ループものにおける主人公の最大の武器は自分だけが記憶を持ち越せて何度もやり直せること。しかし個人ではなく、それ以外の全人類もループし始めた場合、世界はどうなってしまうのか? そんな全人類が同じ一日を繰り返すようになった世界を描いたのが本作品だ。

本作は連作短編形式になっており、話によって主人公が交代する。娘を殺され犯人に復讐を誓う親。襲われないように自分たちで自衛する女子高生。事故からの復帰を目指す格闘家。一人で毎日図書館に通う女性。立場の異なるこの4名の視点から物語は紡がれる。

一人一人のエピソードが面白く――復讐を達成しても、殺された者がループによって翌日に甦るなら殺す意味はあるのか?――それだけでも読み応えがあるのだが、それと同時に全人類がループをしている世界という異常な状況をしっかりシミュレーションしているのが面白い。たとえば、世界がループする瞬間に起きていた人間と寝ていた人間では取れる行動の幅が大きく違うのではないか? どんな大怪我をしても翌日(?)にリセットされるなら格闘技のルールも変わって来るのではないか? などなど異常な世界で起こりうる変化をしっかり想定し、それが物語に自然と組み込まれている。

また各話ごとに意外なツイストが仕込まれており、興味を持った方は是非一話だけでも読んでみてほしい。


(「やり直せたら上手くいく!? ループ小説」4選/文=柿崎 憲)

生き残るためには誰の手を取るか選ばなくてはならない。

  • ★★★ Excellent!!!

幼馴染を殺され、さらに冤罪を着せられた村人のキスカ。彼は罰として超高難易度の【カタロフダンジョン】に追放させられ、さっそくモンスターに襲われる。そんな窮地の彼がたまたま手にしたスキルが〈セーブ&リセット〉。何度でもやり直しできるある意味最強のスキルのはずなのだが、よりによって最初のセーブ地点がモンスターに襲われる直前! 元々ただの村人だったキスカが戦闘スキルなど持ち合わせているはずもなく、殺されて甦った瞬間、再びモンスターに襲われ続ける超ハードモードなスタートに……。

そしてダンジョンの中にはキスカの助けになりそうな存在が3つ。一つは封印された元勇者アゲハ・ツバキ、一つはダンジョンで暮らす吸血鬼ユーディート、一つは使用者の身体を蝕む寄生剣傀儡回し。

いずれも強力な力を持つが、タイトルからわかる通り一番助けになりそうな勇者はかなりの危険人物。そして残りの二つも一つ間違えれば平気でこちらの命を奪う超危険な代物。しかしダンジョンから帰還するためには最低でもこのうちの一つの力を借りなければならないのが辛いところだ。物語前半の舞台はダンジョン内のみで、さらに登場人物はキスカとこの三名だけというかなり異色の構成なのだが、それでも極限状態に追い込まれたキスカの運命が気になってぐいぐい読み進められるし、世界の秘密が徐々に明らかになる中盤以降も変わらず面白い!


(「やり直せたら上手くいく!? ループ小説」4選/文=柿崎 憲)

ループを断ち切るためには彼女のおっぱいを揉まなければならない……!

  • ★★★ Excellent!!!

ぼっち気質の高校生松井はある日、大爆発に巻き込まれて自分が死んだ際にタイムリープする特殊能力を持っていることに気づく。そして何度も爆発に巻き込まれ、同じ時間繰り返す内に、その大爆発の原因が氷の美少女と呼ばれるクラスメイトの雨宮ほのかにあると気づいた松井は、この爆発を止めるために、重大なミッションに挑む。

そのミッション内容とは……雨宮のおっぱいを揉むこと。……こいつはヘビーだ。胸を揉んで爆発を止めるだけなら簡単かもしれない。が、爆発を阻止すればループも終わり、残るのはクラスメイトのおっぱいを揉んだという性犯罪の事実のみ。爆発を止めるためにおっぱいを揉んだなんて誰も信じてくれやしない! だから松井は追い求める。雨宮のおっぱいを合法的に揉む方法を……!

起こるとわかっている事件や事故を止めるために主人公が四苦八苦するのは、ループものの定番だが、本作はその止める手段をおっぱいにすることで物語をラブコメにしているのが大きな工夫。ろくに友達もいない松井が、爆発を止めるため雨宮さんと距離を縮めようと頑張ったり、行動パターンを分析してラッキースケベを狙ったりと、真剣で切実、それでいてどこか馬鹿馬鹿しくも甘酸っぱいという良いラブコメの条件を満たしている。はたして松井はおっぱいを揉むことができるのか!? そしてついでに爆発を止めることができるのか? それは君の目で確かめてくれ!


(「やり直せたら上手くいく!? ループ小説」4選/文=柿崎 憲)

乗客たちはいつまでも墜ち続ける。

  • ★★★ Excellent!!!

ループで得た知識を使って、これから起こる事件を回避するのがループものの醍醐味。しかし、その知識を使いようもない状況でループが起きたらどうなるのか。本作はそんな極限状況を描いた作品だ。

何せ舞台は墜落3分前の飛行機の中。乗客はもちろん機長にすらどうすることもできない。そして乗客全員が記憶を持ちこしており、この地獄を共有している。最初の方はそれこそ阿鼻叫喚だったのだろうが、本作で描かれるのは何度もループを繰り返した末の、すっかり諦めで支配された機内の中だ。既に運命に抗おうとはせず、音楽を聴く者、愛を交わそうとする者、本を読む者など、人それぞれ。

この3分間で大きな事件は起こるわけではなく、淡々とした会話で物語は紡がれていくのだが、死、それも復活することを前提にした死を目前にした人々の会話が実に良い味を出していながら、こちらの価値観に大きく切り込む内容となっている。物語の分量もちょうど3分ほどで読み切れるということもあり、登場人物たちの心境をリアルタイムで実感できる構成になっているのも実に良い。


(「やり直せたら上手くいく!? ループ小説」4選/文=柿崎 憲)