乗客たちはいつまでも墜ち続ける。

ループで得た知識を使って、これから起こる事件を回避するのがループものの醍醐味。しかし、その知識を使いようもない状況でループが起きたらどうなるのか。本作はそんな極限状況を描いた作品だ。

何せ舞台は墜落3分前の飛行機の中。乗客はもちろん機長にすらどうすることもできない。そして乗客全員が記憶を持ちこしており、この地獄を共有している。最初の方はそれこそ阿鼻叫喚だったのだろうが、本作で描かれるのは何度もループを繰り返した末の、すっかり諦めで支配された機内の中だ。既に運命に抗おうとはせず、音楽を聴く者、愛を交わそうとする者、本を読む者など、人それぞれ。

この3分間で大きな事件は起こるわけではなく、淡々とした会話で物語は紡がれていくのだが、死、それも復活することを前提にした死を目前にした人々の会話が実に良い味を出していながら、こちらの価値観に大きく切り込む内容となっている。物語の分量もちょうど3分ほどで読み切れるということもあり、登場人物たちの心境をリアルタイムで実感できる構成になっているのも実に良い。


(「やり直せたら上手くいく!? ループ小説」4選/文=柿崎 憲)

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