ある日突然異世界と融合してしまった地球。人々に魔法や特殊な力が宿り、その一方で異世界の神々やモンスターが跋扈し社会や環境が激変し、食料問題解決のためにモンスターを食すのも当然となった世界。この混沌とした世界でハンターにして料理人である貝塚は弟子である柿本を連れて、新たな食材に挑戦を試みる。
「モンスターを食べる」という行為は近年のフィクションでは珍しくなくなったが、本作はそうしたテーマの一つ先をいっている。その内容はタイトルにある通り。そして最初に選ばれた栄えある食材が「木」である……木かぁ……。
しかし、この八王子に植林されている殺人樹(食欲の失せる名前だ……)を捕らえて食べようとする試みが非常に面白い。毒などがないか丁寧に成分調査を行い、全体の中から可食部を大真面目に探し、現実の利用法を踏まえたうえで意外な調理法を見つけ出す。
このプロセスだけでも面白いのだが、本作の白眉となるのが料理の描写である。出てくる料理がどれも美味しそうなのだ! 食材は「木」なのに! 一見出オチのようなアイデアにも関わらず、単品で終わらせずにしっかりコース料理に仕上げてくるのも心憎い。
美味い料理のためなら、とことん手段を選ばない貝塚が非常にいいキャラをしており、今後この男がどのような食材に挑戦していくのか、ぜひとも続きが読んでみたい一品に仕上がっている。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)