また雪かーい!
 思わず叫んでみましたが、この原稿を書いている今も雪が降っています。
 本当にこの冬は雪が多いですね。そのせいで自転車小太りおじさんを休業、電車小太りおじさんになっておりますわたくしですが!
 現在抱えるひとつめの悩みは勤めているわけでもないのに定期を買うべきかどうかだったりします。なんだか気恥ずかしいのですよね。出勤先が喫茶店(店員さんではない)なのにそこまでするかー? って感じで。
 そしてふたつめですが、程よい防寒がわからんことです。小太り故に厚着は辛く、かといって薄着では耐えきれず。暑さに弱いのに寒さは嫌いとかいうこの我が侭ボディ! 本人が言うのもなんですが、マイボディにはもう少し弁えていただきたいところですね。
 ……などと己への苦言を呈しておきまして、今月はみなさまにぜひとも出逢っていただきたい新作をご紹介して参りましょうー。みなさまがこの冬を無事、快適に過ごし抜いていただけますことをお祈りしつつ!!

ピックアップ

ちょっと不思議なものを追いかけるドキュメントスタイル・ミステリー!

  • ★★★ Excellent!!!

 杠葉高校文芸部に所属する1年生、志島皐月は書き出せない部誌の原稿を前に唸っていた。そこへ現れた部長との雑談の中、皐月はふと思い出す。先週の土曜日に見た、「ちょっと不思議なもの」のことを。

 こうして皐月さんの記憶を辿っていくわけですが、辿りかたがそのままインタビュー番組の手法をなぞっているのがおもしろポイントです。

 部長さんというインタビュアーの補足や要約、促しを受けた皐月さんの行動や心情が丁寧に語られて、現場検証で謎が少しずつ解かれていく。小説でありながらドキュメントであるという構成は物語を深掘りし、さらにはごく自然に、皐月さんという語り部の人となりや部長さんとの関係性も浮き彫りにしてみせるのですね。

 そうして掘られて彫られて、ついには正体の知れない不思議の正体へ迫ることに。そう、ある一点から、ドキュメントがミステリードラマへ転じるのです! このどんでん返し、すばらしいのひと言ですよ。

 ささやかなお話を最高の切れ味で魅せてくれる日常の謎、推すしかありません!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

きゅうりが織りなすひとりの男の悲喜劇

  • ★★★ Excellent!!!

 曰く付きのきゅうり商いで小銭を稼いでいた喜兵衛は、道中で山賊に襲われる。そんな彼を救い出したのは、お話の中の存在と思い込んでいた河童だった。彼らにきゅうりを差し出した喜兵衛だが、与えられた礼は脱ぐことのできない河童の甲羅。大いに嘆いた喜兵衛だが、話はよい方向へ転じ、ついには殿様のお召しを受けて……

 河童を軸に置いたこのお話、構成が本当にすばらしいのです。冒頭に結末を置いて読者の目を引っかけておいて、章ごとにお話を転じて見どころを提供、最後はビターに締める。それだけでも感心するよりないのですが、きゅうりがマクガフィンとして全編に渡って機能し続けているのがまた絶妙なのですよねぇ。

 そして、喜兵衛と同村住みで、彼が辿った顛末のすべてを心得た“俺”を語り部に置いた「お話との距離感」、これによって成される一人称なのに端的で客観的な目線ですよ。これが読者を自然にお話へと引きずり込んでくれるのです。

 うまい、読みやすい、おもしろい! 三拍子そろった小奇譚、眠れぬ夜のお供にぜひ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

この過去を表す枕詞を求めて開示する、記録!

  • ★★★ Excellent!!!

 恥の中に光るものがある。そう信じた著者さんが過去、『mixi』に書き綴ってきた日記を披露!

 お若い方はもう知らないかもしれませんが、『mixi』はインターネット成長期に数多の人々を繋いだSNSです。本作はそこで著者さんが公開されていた日記の再録ですね。

 時代や年代ごとに思考や言葉は変化していくものですが、人の記す文章もまた、「あのとき」を映すもの。特に日記という、飾ってはいてもダイレクトな心情を記したものであればこそ、なにより鮮やかな過去の著者さんが見えてくるのです。

 そして、今はきっと違うことを感じて考えるからこそ、当時の自分の拙さや熱の高さが面映ゆくて、でも逆に輝いても見える。仕事や趣味がこなれてきて、なんとなく行き詰まったときにふと顧みることの意味や意義を、この日記は教えてくれるのですね。うん、まさに温故知新。

 なつかしい、あるいは知り得なかった時代を感じられると同時に、新しい発見もできる本作、あなたも次へ進むきっかけが得られるはず!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

ナマケモノ、45歳でいきなり家、建てちゃいます!?

  • ★★★ Excellent!!!

 のんびり生きたい自称“ナマケモノ”の著者さんは、結婚やさまざまな事件を経て、のんびりとはほど遠い貧乏暇なし生活を余儀なくされる。そして急かされる日々の中、ふと意識するのだ。大学時代になんとなく言った夢、「家を建てる」を。

 詳しい経緯は本編をお読みください。と言い切ってしまえる著者さんの筆、いいんですよねぇ。小気味よくて濃やかで、わかりやすいのに心情の細部まで見せてくれて。

 中でも「なにをしていても歳は取る」リアル、格別なのですよ。これが芯に通されていればこそ、家を建てると意を決していく心情の動きがドラマとして際立つのです。

 実際、家は人生最大の買い物です。けしてお金持ちではない45歳の著者さんにとって、どれほどの負荷となるかは明白ですよね。しかし、思い立ったナマケモノは悩む手間をぽいっと捨てて邁進します。このスピード感がまた気持ちいいんですが、しかし!

 お話はそううまく進みません。なにが起きたのかは……本編をお読みください(2回目)。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)