きゅうりが織りなすひとりの男の悲喜劇

 曰く付きのきゅうり商いで小銭を稼いでいた喜兵衛は、道中で山賊に襲われる。そんな彼を救い出したのは、お話の中の存在と思い込んでいた河童だった。彼らにきゅうりを差し出した喜兵衛だが、与えられた礼は脱ぐことのできない河童の甲羅。大いに嘆いた喜兵衛だが、話はよい方向へ転じ、ついには殿様のお召しを受けて……

 河童を軸に置いたこのお話、構成が本当にすばらしいのです。冒頭に結末を置いて読者の目を引っかけておいて、章ごとにお話を転じて見どころを提供、最後はビターに締める。それだけでも感心するよりないのですが、きゅうりがマクガフィンとして全編に渡って機能し続けているのがまた絶妙なのですよねぇ。

 そして、喜兵衛と同村住みで、彼が辿った顛末のすべてを心得た“俺”を語り部に置いた「お話との距離感」、これによって成される一人称なのに端的で客観的な目線ですよ。これが読者を自然にお話へと引きずり込んでくれるのです。

 うまい、読みやすい、おもしろい! 三拍子そろった小奇譚、眠れぬ夜のお供にぜひ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)