今冬、最注目のゲームの一つである『サイバーパンク2077』の発売を記念して、カクヨムで読める「サイバーパンク」な近未来の世界を堪能できる小説を特集します。サイバーパンクと言えば、SFジャンルの中でも根強い人気を誇り、小説だけでなく映画やアニメなどにも大きな影響を与えています。
今回ピックアップした4作品を読むと、サイバーパンクというジャンルの幅広さを感じていただけるのではないでしょうか。最新のIT技術を駆使したサイバー犯罪をめぐる人間ドラマ、身体拡張で体の大半がメカになったおばあちゃんを通して描くディストピア、文豪のクローンに遺作を書かせようと奔走する男の夏の一幕、奇人や怪人が跋扈する終末都市を舞台としたマッドな大活劇……。レビューを読んで、気になった作品から開いてみてください。
小説を読んでサイバーパンク熱が高まったら、『サイバーパンク2077』の舞台・巨大都市ナイトシティで最高の近未来体験をしてみてはいかがでしょうか⁉

ピックアップ

サイバー犯罪の最先端がここにある!

  • ★★★ Excellent!!!

ITセキュリティを得意とするエンジニア、進藤将馬。以前勤めていた会社は潰れ、フリーとして活動中だった彼に元同僚から仕事の依頼が持ち込まれる。その仕事の内容は、将馬が持つ特別なセキュリティソフト『クー・フーリン』を売ってほしいというものだった。ソフトの販売権は彼にあるが、製作者である友人の木更津は『僕は殺される』というメッセージを残し一年前に行方不明となったまま……。そんな中、朔の手掛かりを知る謎の女性が将馬の前に姿を見せ……。

サイバーパンクという言葉が誕生したのは1980年代中盤。それから約35年が経った現在、多くの人々が当たり前に大容量の携帯端末を持ち、街中にwi-fiの電波が飛び交い、家庭では光回線が引かれ、声で呼びかけるだけでスマートスピーカーが様々なことをしてくれる。宇宙人はやってこないしタイムマシンもまだできていないが、それでも我々は当時夢想されたSFとかなり近い世界に生きているのだ。

そういう意味では舞台は現代だが、最新のIT技術とネットワークを駆使した犯罪劇を描く本作は立派にサイバーパンクの系譜を引き継いでいると言えるだろう。登場人物もハッカーに闇医者や情報屋、ギーグの女性IT技術者と胡散臭くも魅力的な人間が盛りだくさん。社会と上手く馴染めない人間たちが優れた技術を手にしたとき、どのように生きるのか? 彼らが織りなす人間ドラマと最新技術による極上の犯罪劇をとくとご覧あれ!


(「サイバーパンク的な近未来にひたれる作品」特集/文=柿崎 憲)

高度に発達した科学は悪夢と区別がつかない

  • ★★★ Excellent!!!

サイバーパンクといえば科学技術による身体拡張。では、もし機械による身体拡張が実現した場合、どのような層が一番恩恵を受けるのか? セレブ? スポーツ選手? それともアウトロー? 色々な可能性があるが、実際のところ機械化が一番ありがたいのは高齢者層ではないだろうか。人間誰もが歳を取り身体の不調は増えていく一方。そうなった時に機械で身体機能を補えるというのは大変大きなメリットである。

そんなわけで本作に登場するおばあちゃんも体を機械化されている。頭部以外はほとんどメカに置き換えられており、特に人間の形にこだわる必要もないので胴体はムカデっぽい形状になっている。脚が16対もあってとっても便利! 宗教の勧誘もあっさり撃退できる! お年寄りにつきものの物忘れに対しても海馬を量子メモリで補助することで完璧な対応だ! 凄いや量子コンピューターおばあちゃん! イェイイイェイ! しかし進みすぎた科学技術が人間に牙を剥くというのはSFの典型であるわけで……。

そんなおばあちゃんと孫の日常を描いた本作品。冒頭の「ウワーッ! 仏壇から内臓が!」という超パワーワードで一気に持っていかれるし、その後のサイボーグと化したおばあちゃんの数々の奇行は強烈過ぎて笑いが止まらない。なのに読み終わってみると何ともいえない寂しい気持ちにさせられる唯一無二の作品だ。


(「サイバーパンク的な近未来にひたれる作品」特集/文=柿崎 憲)

太宰治、またしても死にそびれる。

  • ★★★ Excellent!!!

AIやプログラムを使って亡くなった人物の人格を再現する。サイバーパンク系の作品では良く見られる設定だ。脳の活動が電気信号によって営まれる以上、コンピューターが進歩すれば人間の精神ですら再現可能だ、というテクノロジーへの期待がそこにはある。本作でも亡くなった人物の人格を再現しようとするのだが、やり方はもうちょっとシンプルでクローン技術を使って、培養層の中で死者と同じ機能を持つ脳を育てようとする……うーんグロテスク。

そして本作で甦らせられるのが太宰治。言わずと知れた文豪である。未完で終わった彼の遺作『グッド・バイ』の続きを書かせようとするのが太宰復活の目論見であるのだが、この太宰、とにかく原稿を書こうとしない。それどころか自分の管理をする女性スタッフと心中未遂まで行う始末。

そんな脳だけとなった太宰と彼を担当することになった男性スタッフ(女性スタッフは太宰の心中に巻き込まれてしまうので)の物語。あの手この手で小説を書かせようとする男と決して手(?)を動かさない太宰のやりとりはコミカルで非常に楽しく、脳だけの太宰に振り回されてあれこれ愚痴ってばかりいる男の姿を見ているだけなのに、読んでいる内に人間・太宰治の魅力が伝わってくる内容に仕上がっている。


(「サイバーパンク的な近未来にひたれる作品」特集/文=柿崎 憲)

柳生が来りて、町田は狂気に呑み込まれる

  • ★★★ Excellent!!!

時は柳生暦37564年、死都町田に訪れしは柳生十兵衛。功名を、栄誉を求め、十兵衛の首を狙い、町田に潜む奇人、怪人、魔人が次々に姿を見せる。かくして柳生十兵衛を中心として町田に狂気と死の渦が巻き起こる……。

これは冒頭のあらすじだがこの時点で大変パンクな作品である。登場人物もマッドサイエンティストによって全身を兵器に改造されたウォーモンガーたみこ(本名)や斬られた首を機械に繋がれ生体コンピューターと化した二兆億利休(自称)などもいるしサイバー要素もばっちり。

つまり本作品はどこに出しても恥ずかしくないサイバーパンクということになる(断言)。

登場人物はそれ以外にも、肉で作られた洋館【内臓館】に住む女主人マダム・ストラテジーヴァリウスや二千万人の軍勢を誇る北関東の最大の暴走族【霊義怨】、かつて十兵衛にやられコーホーとしか喋れなくなった柳生ベイダーなど、非常にアクの強い連中ばかり。そしてそんな奴らを歯牙にもかけないとにかくべらぼうに強い柳生十兵衛……全体的に設定が誇張されすぎている……それにもかかわらず死力を尽くして戦う彼らの姿を見ている内に、気づけば胸が熱くなってしまう……。

世の中には技巧が洗練された小説や人の心を絶妙に揺さぶるエモい小説など数多くの優れた作品がある。だが本作のような力技と勢い全振りの内容は市販の小説では決して見られまい。このような怪作と出会えることがWEB小説を読む大きな喜びの一つと言えるだろう。


(「サイバーパンク的な近未来にひたれる作品」特集/文=柿崎 憲)