動物はいいものです。自分も家で原稿を書いていると大体途中で逃げ出したくなるのですが、そういう時は近所の地域猫に会いに行ってお腹を撫でたり、お尻をポンポン叩いたりして癒されるものです。やはり動物はいい……というわけで今回は動物もの特集。猫になった旧友、認知症が始まっているドラゴン、教えていない言葉を喋るインコ、黒猫に変身できる魔女。他ではあまり見られような変わった動物たちとの日常をご覧あれ。

ピックアップ

その猫は臆病な自尊心と尊大な羞恥心を抱える

  • ★★★ Excellent!!!

 現代を生きる官僚の遠藤は激務からの帰宅途中、言葉を喋る獣に出会う。その獣の声がかつての友人にそっくりだと気づいた遠藤は思わず叫んでしまう
「待って。その声は、ズッ友、アチョーじゃない?」と。

 ……どこかで聞いたようなあらすじで、どこかで聞いたようなセリフであるが、本作の場合、遠藤の親友であるアチョー(あだな)がなってしまった獣は虎ではなくて茶トラの猫であった。

 そうして元ネタ同様、久々の再会をきっかけに始まるアチョーの過去話。まあ夢破れて気が付けば動物になっていたというアレである。しかしここからが元ネタとは少々違ってくる。行く当てのないアチョーは遠藤に自分を飼ってくれと頼み、人の良い遠藤はそれをあっさり了承してしまうのだ。虎じゃなくて猫で良かったね!

 かくして始まる一人と一匹の共同生活。どこかすっとぼけた遠藤と妙にあつかましいアチョーのやりとりが非常に微笑ましく読んでいてついつい顔がほころんでしまうし、終盤で滔々と語られるアチョーの心情の吐露には心を打たれるし、最終的に彼らが出した結論に思わずほろり。

 猫好きの人にはもちろん、カクヨムで小説を書いている人たちにも是非読んでいただきたい作品だ。


(「動物と暮らす」4選/文=柿崎 憲)

天才インコも知らない言葉は喋れない……

  • ★★★ Excellent!!!

 仕事中毒であるOLの「私」はある日偶然訪れたペットショップで見かけたインコに一目ぼれしてしまう。

 毎日が仕事で手いっぱいで、趣味らしい趣味と言えば人気のテーマパークに通うことぐらい。そんな「私」の日常が新しくできた同居人によって一気に充実していく。毎日小屋の掃除をして一緒に食事をとり撮影会も欠かさない。

 やがて「私」の愛情の甲斐もあってかデスティニーと名付けられたインコはついに言葉も喋るように! しかし、それは彼女が教えた言葉ではなくて……。

 前後編で構成される本作品。前編では「私」とデスティニーの何気ない日常が語られるだけだが、後編からは一気に急転直下。デスティニーが発するある言葉が作品の雰囲気をガラリと変えてしまい、さらにラストは思わぬ角度からの襲撃が! 

 改めて前編を読み直すと、意外な部分が最後に最大限の恐怖を与えるための布石になっていて、短くシンプルな内容ゆえに作者の技巧が際立つ一作です。


(「動物と暮らす」4選/文=柿崎 憲)

異世界×ドラゴン×介護! ドラゴンと人間の異色の交流がここに!

  • ★★★ Excellent!!!

 介護福祉士の會澤茜は仕事中に不慮の事故で亡くなってしまい異世界に転生。異世界で彼女に与えられた仕事はこちらでも福祉士。ちゃんと相手の事情を慮った素晴らしい采配だ。ただし介護の相手は人間ではなくドラゴンなのだが……。

 認知症のドラゴンを介護するという設定だけきくと大変シュールに思われるのだが、このドラゴンのボケっぷりが妙に生々しいのである。

 茜は特別なスキルも与えられたというわけでもないのに、そんな天災同然のドラゴンの面倒を甲斐甲斐しく見続ける。お腹が重たいというので摘便を行ったり、お風呂に入りたがらないのを上手く誘導したり、再び飛べるようにリハビリにつきあったり……。このドラゴンと茜の付き合い方がファンタジー世界であるのに、非常にリアリティを感じられるから凄い。

 茜がこうした介護ができるのは生前の経験も大きいが、それ以上に大事なのがドラゴンに対する思いやり。種族も寿命も異なるし、向こうはこちらのことを多少覚えてもすぐに忘れるかもしれない。それでもこうやって過ごした記憶と絆は茜の中にちゃんと残る。

 介護の辛さや苦しさを誤魔化さずに描きながら、それでも命と向き合う大切さを描く異色のファンタジーだ。


(「動物と暮らす」4選/文=柿崎 憲)

魔女も猫も嫌われ者……そんな国で魔女が猫カフェを開店します!

  • ★★★ Excellent!!!

 魔法学校を卒業した魔女のシルヴェスの目標は猫カフェを開くこと。しかし、この国では魔女は怪しげな存在として嫌われているし、猫もその魔女の使いとして嫌われている。しかも魔女といってもシルヴェスが使える魔法は黒猫に変身することだけ……。

 ここまで猫カフェに向いてない状況もそうそうないのだが、もっと猫の良さを知ってもらいたいシルヴェスは学生時代の友人の協力も借りつつ大奮闘。しかし、国内では一部の住人による猫の殺害が横行し、さらにその猫を殺す住人に報復する謎の魔法使いが暗躍していて……。

 猫カフェ経営ということで一見お仕事もののように思える本作だが、メインとなるのは経営というよりも、どうやって人間と猫を和解させるか。猫の良さを人々に伝えるため、あの手この手で奮闘するシルヴェスの姿は読んでいて応援したくなる。その一方で猫を巡って起きる謎の魔法使いによる殺人事件の謎もしっかり追っているのもお見事。猫の可愛さに気を取られてばかりいると、ラストで次々と明かされる真相の数々に驚くこと必至です!


(「動物と暮らす」4選/文=柿崎 憲)