何というか毎日引きこもって本を読んでばかりだったり、こうして文章を書いていたりばかりだと、心身ともによろしくないなと思って軽い運動を始めました。ロッキーのBGMを流しながら道路を走ったり、地道に筋トレを行ったりと色々試しているのですが、今のところ仕事に良い影響は一つもない! むしろ筋トレしている時間に原稿を書くべきでは? などと思ったりもしますが、どんなこともやってみなくてはわからない! そしてどんな小説も面白いかどうかは読んでみるまでわからない! というわけで新作紹介です。どれも面白い良い作品だ! しかし、それを本当に確かめられるのは実際に読んでみた君だけだ! というわけで興味を持った方々は是非是非ご一読を。

ピックアップ

仮初の命を与えられた死者は、二度目の生を歩む

  • ★★★ Excellent!!!

本作の主人公となるのは、不治の病に全身を侵され苦痛の中死んでいった一人の青年。

だが、死んだはずの彼は死霊魔術師ホロスによって死肉人(フレッシュ・マン)として甦らせられ、エンドという新たな名前を与えられる。

何やら不穏な計画を立てているホロスの下から逃げ出そうとするエンドだが、ホロスの言葉には一切逆らえず、そう簡単に逃げ出せそうにない。さらに彼らの住処には、アンデッドの天敵とも呼ばれる終焉騎士団が近づいていた……。

本作の主人公エンドだが、特徴としては凄く弱い! いや、一応死肉人(フレッシュ・マン)になったことで猛獣と戦えるぐらいの戦闘力は持っているのだが、いかんせん周りが強すぎる。死霊魔術師ホロスも終焉騎士団の面々も、その気になれば簡単にエンドを殺すことができるのだ。そんな彼らに囲まれるという絶望的な状況下でどうにか生き残ろうとするエンドの立ち回りが実に読ませるのだ。

自由意思が残っていることを隠してホロスの裏をかこうとしたり、時には自分の不幸な生い立ちを利用して同情を買おうとしたりと、あの手この手で窮地を切り抜けようとする。どんな苦痛に襲われても、地獄のような生前の記憶をバネに這い上がっていく。

正しい道を歩もうとするヒーローのような正義感もなければ、敵対する者全てを薙ぎ払う悪の支配者のような力やカリスマもない。だからこそ彼が必死で生き延びようとする姿は強烈に胸に刺さるのだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

幼馴染が作る愛情たっぷりの料理に隠された思惑が……!

  • ★★★ Excellent!!!

自分に毎日美味しい手料理を振る舞ってくれる幼馴染がいたら……。みなさんそんなこと思ったことはありませんか? ありますよね。そうみんなあるんです!

そして本作はそんなあなた方のためのような一作。

就活中の大学生、水上貢介に毎日手料理を作ってくれる幼馴染の夏秋美帆。めっちゃ可愛いし健気だし料理上手だし、ほぼほぼ満点なんだけど、たった一つだけ問題がある。

作ってくる飯の量が多い……。

それも好きな人にいっぱい食べてほしいとか、思いを込めてたらいつの間にかつい作りすぎちゃったとか、そういう理由からではない。
彼女は重度のデブ専であり、とにかく貢介を太らせたいのだ……!

かくして振る舞われる、成人男性1日分の必須カロリーを大幅に上回る、食という名の暴力。
もしこれが不味そうであれば食わずにスルーも出来るのだが、この料理がめっちゃ美味そうなのである。そして貢介もダメだとわかりつつもそれをめっちゃ美味そうに食うのである。おかわりもしてしまうのである! 貪ってしまうのである!!

果たして貢介はこの試練を乗り越え、体重を減らし就活に成功できるのか?

就活以前に健康面の方が心配になるレベルだが、ガンバレ貢介! とりあえずスニッカーズは食べちゃダメだ!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

王様はスラムの教会で、今日も幸福を願う

  • ★★★ Excellent!!!

王都のすぐ隣にある壁で隔てられたスラム。そこには身寄りのない子供を集めて教会で世話をする一人の青年がいた。子供たちに暖かい食事と寝床を与えて童話を読み聞かせ、真紅の長い髪と瞳を持つことから、『緋色の王様』と呼ばれるその青年。しかし、彼の周りには一人を除いて、大人の姿はいない。では成長した子供たちはどこへ行くのか……。

本作品は、この緋色の王様を中心に紡がれる、複数の人間の思いが絡み合う群像劇だ。

子供に生きる意味を問いかける闇商人、王都で暮らすお姫様とその幼馴染、幼いころに誘拐された貴族の子供、りんごを報酬がわりにするスラム一の情報屋、そして王様が《神様》と呼ぶ地下に隠された謎の生物……、いずれもいわくありげな人物ばかりだ。

人々が何かを願うことが魔法になるというこの世界で、果たして誰の願いが結実し、誰の願いが打ち砕かれるのか。

怪しげな雰囲気と複雑にもつれていく人間関係が魅力の、先が気になってついつい読み進めたくなる一作だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

神学と科学が重なるとき、人類は神に抗う力を手に入れる

  • ★★★ Excellent!!!

西暦2020年のクリスマス、天使の姿を象った怪物によって町の人々は一瞬にして塩の柱へと変えられた。それから時が経つこと10年。人類はその八割を喪いながらも、かろうじて生き延びていた。その要因こそが『メシアクラフト』、最初の災害で生き残った唯一の少年・ユウキをパイロットとする、世界中から集めた聖遺物によって造られた人型決戦兵器だ。

そして今、そのメシアクラフトとユウキの最後の戦いが始まろうとしていた……。

ロボットものはカクヨムのSFジャンルの中でもかなりの人気分野なのだが、その中で本作を紹介する理由、それはこのメシアクラフトの設定が実に秀逸だから!

通常兵器では傷つけることのできない敵に対抗する手段として、聖遺物を兵器に組み込み、機体に使われる冷却水も聖水、燃料も聖なる重水。操縦できるのは聖人に認定された者だけで、さらに操縦時には手首と足首に釘を打ちこまれ、脇腹を槍で刺されるという儀式がなければ起動しないという徹底っぷり。

搭載されている兵器で戦うだけでなく、聖書に記された奇跡を再現するという戦闘シーンも素晴らしい。人類滅亡寸前という実にハードな設定ながらも、この作品ならではというオチをつけてまとまっているストーリー展開も素晴らしく、分量も中編程度なので、ロボットものが好きな方は是非ご一読を!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)