『カクヨム』というのはそのサイト名からもわかる通り、読む人だけではなく書く人のためのサイトでもあるのです。そこで今回は小説を執筆する人の手助けになりそうな作品をご紹介! 執筆中に手が止まった時の解決方法から、ネット小説に溢れるテンプレ問題、新鮮なアイデアの探し方やプロの世界の舞台裏など、独断と偏見で役立ちそうだと思った作品をご紹介。もちろん小説を書かない人が読んでも面白いのでご安心ください!

ピックアップ

WEB小説のあらゆるテンプレがここに集結!

  • ★★★ Excellent!!!

テンプレート、それは上手に使えば武器にもなるが、下手に使うと作品を一気に陳腐にさせる諸刃の剣。
そして本作は魔王の下に集まったモンスターたちが、モノマネと称して次々とWEB小説のテンプレを披露していくのですが、その既視感が凄い。

一つ一つのネタは元ネタである「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」同様に短いのですが、そのほんの短い一文の中で「あ、このシーンこの前読んだ小説にあった!」という具合に、WEB小説のテンプレを切り取る手つきが実に鮮やかなのです。
個人的にはサキュバスによる「悪役令嬢」シリーズが白眉。

また【WEB創作界隈における新宿の扱い】や【講座系エッセイにありがちな書き出し】というモノマネのタイトルだけでは中身が想像つかないのに、実際に読んだ瞬間「なるほど」と納得してしまうあたりにも作者のセンスが感じ取れます。

こうしたテンプレの数々を参考にして応用するか、あるいは反面教師にするかは読む人次第ですが、こうしたセリフや展開が既にお約束として読者の間でもおなじみになっているということは知っていて損はないでしょう!

連載自体は2年前から始まってる人気作なのですが、今年になって完結したということで、まだ読んでない人も、以前に読んだという人も是非ご一読を。

(小説を書く参考になる作品4選/文=柿崎 憲)

豪徳寺先生の初稿は全ての創作者に勇気をくれる

  • ★★★ Excellent!!!

小説を執筆しているとふと立ち止まってしまう瞬間がありませんか?
「あれ、この表現って日本語として正しいのかな」。あるいは「ここのくだり、どう辻褄を合わせよう……」。あるいは「ここはちょっと調べてから書かないと」。

さっきまで軽快にタイピングしていたはずの手は止まり、言葉の切れ端が脳の片隅から零れ落ちていき、気分転換ついでにちょっとだけwikipediaで調べものをしようとしたら、あっという間に二時間が経過。結局今日も全然進まなかった……。

そんな誰にでも訪れる瞬間をどう乗り越えるか。その答えの一端が本作では書かれています。
小説家・豪徳寺招平が担当編集者に送った小説の初稿。しかし、そこには豪徳寺先生の小説執筆に関するとんでもない秘密が隠されていたのです。
その内容は読者を抱腹絶倒に陥れると同時に「小説はこうやって書いてもいいんだ」という確かな勇気を与えてくれます。

今後小説を書いていて手が止まることがあれば、本作のことを思い出してください。
貴方を悩ませている問題が見事解決!
…………するかどうかはわかりませんが、とりあえず小説執筆自体は先に進んでいくはずです!

…………けどミステリー小説でこの書き方はやっぱりダメなんじゃないかな…………。

(小説を書く参考になる作品4選/文=柿崎 憲)

打ち切られた作家の視点で語られるシビアな作家の世界

  • ★★★ Excellent!!!

カクヨムで小説を書いている人の中には、「自分の作品がランキング上位に挙がってゆくゆくは出版社からのデビューを……」ということを考えている方も多いでしょう。
しかし、外側からは華々しく見えるプロの世界というのはいったいどういうものなのか。
そういったことをプロの作者の視点から描いたのが本エッセイです。

プロが業界を語るというのはそこまで珍しいものではないかもしれませんが、本作で特徴的なのが作者である長物守氏が3作打ち切りという目に合って一度プロ作家から身を引いていること、作者自身の言葉を借りるなら「敗軍の将が兵を語る」という内容になっていることです。
それだけに彼の口から語られる言葉には、成功した作家によるものとは異なる「重さ」が存在します。

これで内容が全編恨み節全開だったりすると読み物としては別種の面白さが生まれるのですが、本作の場合、当時の事をある程度割り切りながら淡々と事実を連ねていくため、参考になると同時にますます重たい。

果たして、プロの作家はどれくらいの収入があるのか、作品を書く際に編集部からはどのような要請を受けるのか、イラストレーターはどうやって決まるのか、SNSではどういったことを書いちゃいけないのか、などの業界の裏話が語られます。
またそれ以外にも、批判を受けたときの心の持ち方や、執筆が滞った時の回復方法などのアドバイスは、きっと参考になるでしょう。

「自分の作品がもっと多くの人に読まれて欲しい」と夢と希望を持って書くのはもちろん大切です。ですが、その一方で頭の片隅にこうした現実を入れておくと、いつか役立つ日が来るのではないでしょうか。

(小説を書く参考になる作品4選/文=柿崎 憲)

1000文字で堪能できる知的な時間

  • ★★★ Excellent!!!

新作を書きたいけれどなかなか良いアイデアが思い浮かばない……。
そんな状況の人におすすめなのが、このコラム集です。

本作で語られるのは、AIやビッグデータなど、現代技術に関するコラムの数々。ただ単純に知識をひけらかすのではなく、スマートフォンや検索エンジンなど生活の身近なところから話を広げたり、SF小説で書かれている世界と現代を比較したりと、巧みな話術で読者の興味を惹いて、自分のような門外漢にもわかるように最新技術に関するよもやま話を繰り広げていきます。

また、本作で重要なことの一つに、算盤や本棚、あるいはお箸など日常で古くから使われている道具に関するコラムもあるのですが、そのときの語り口が現代技術を紹介するときとあまり変わらなくて、それなのに面白く読めるんですね。
つまり本作の面白さは、ただ単に最新技術の目新しさだけではなく、その技術を基にした作者の発想のユニークさにあるのです。
我々が普段当たり前のように見聞きしたり使っていたりするものに対して、新しい角度から光を当てて新鮮なコラムに仕上げてみせる。
こうした発想から生まれるアイデアもあるのではないでしょうか。

たとえば「このコラムで紹介されている技術をファンタジー世界に応用させようとするとどうなるか?」。このような考えが新しい発想の手掛かりになるかもしれません。

(小説を書く参考になる作品4選/文=柿崎 憲)