年度が変わりまして、スタイルも少々変わったこちらの企画。まずは人気の高い作品の中で目を惹きつけられた4本をご紹介させていただきます!
こうして見ますと、やはり人気作は個性派ぞろいですねぇ。私は下読みということもあってお話の軸になっているネタを真っ先に見るのですが、支持されるだけのことはあるなぁとしみじみ思ったりしました(なんだか偉そうで申し訳ないです)。
人とまるでちがうネタじゃなく、同じネタにどれだけ著者さんご自身の色をつけられているか。書かれる方も読まれる方も、ぜひそれを意識しつつご一読いただければ!

ピックアップ

ゴリラの無実を信じた少女は殺人事件の謎に挑む!

  • ★★★ Excellent!!!

学校で飼育されているローランドゴリラのローラがいなくなって、撲殺事件が起こった。
生徒たちはゴリラの仕業じゃないかと噂しあうが、ローラといちばんの仲良しの美咲はそれを否定。ローラの行方と事件の真相を追うと決めた。

ということで、このお話はゴリラを軸に語られるミステリなのですが……
相当に不条理です。でも、それを納得させてしまう不思議な説得力があるんですよねぇ。
理由は簡単で、振りもオチもきちんとゴリラが務めていて、美咲さんとローラの間に確かな絆があるから。
誰かを信じ抜くことの美しさが、ゴリラっていう人間ならぬ存在を通してより高められてるところがすばらしい! 

友情もので、動物もので、不条理で、ミステリ。普通なら絶対まとまらない内容を12000字で落としてみせる著者さんの筆力も見事です。
タグの「闇鍋」はまさにこの作品を象徴してますけど、安心して召し上がっていただける一作ですよー。

(味があるから人気作! 濃さと厚さの4選/文=髙橋 剛)

あのときを確かに生き抜いた兵士が記した「超訳」戦記

  • ★★★ Excellent!!!

南宋の兵士である趙萬年が、金朝との戦いの中で残した記録。それを小説化したものがこちら――なのですが。そもそも、同じ日本で使われていたはずの古文を読み解くのは難しいですよね。ましてや中国っていう外国のさらに昔の言葉、漢文を読み解くなんて、たとえ日本語訳ができても訳わからぬぅ! 

この作品はそれをわかりやすい口語体の「超訳」で読ませてくれるのです。
しかもそれだけじゃありません。各話に細やかな解説をつけて、さらには別章として原文と原訳まで並べてくれてるんです。
歴史ドラマ+歴史資料、きっちり両立しちゃってるのですよ。これはもうすごいのひと言です。

そしてドラマの魅力はなんといっても、王族とか将軍とかじゃない軍人の生の感情と思考が見えるところ。
戦のダイナミックさの中に閃く下っ端魂――戦略よりも戦術よりも、目先の勝利へ飛びつくたくましさが感じられるのはたまりません。

中国史的には通過駅ながら、実は激熱な1200年代初頭、ぜひ体感してくださいませ!

(味があるから人気作! 濃さと厚さの4選/文=髙橋 剛)

とあるWeb作家の奮闘記!

  • ★★★ Excellent!!!

人気Web作家になる! 志を胸にカクヨムへの投稿を開始した著者さんの奮戦を綴ったエッセイがこちら。

なにより目を惹かれたのは、著者さんが包み隠してないところでした。「私の小説はつまらないのだ!!」なんて、なかなか言えるものじゃありません。
そしてその後の分析がまたご自身に容赦ないのです。
それを越えて模索していく「ウケる」ための心得。読者としてコンテスト応募作のレビュー実施や、ご自身の作品をコンテストへ応募するなど、ひとつひとつ積み重ねていきます。

この展開、少年マンガの王道ですよね! 挫折から立ち上がり、一段ずつ階段を上がっていく姿なんてまさに。

各話の連なりにチャレンジャーのリアリズムと熱意が匂い立っていて、同じようにご投稿されている方は特に感じるものがあるはず。

読むとなにかを創りたくなることまちがいなしです!

(味があるから人気作! 濃さと厚さの4選/文=髙橋 剛)

「落としましたよ」から始まる“せんぱい”と“後輩ちゃん”の物語

  • ★★★ Excellent!!!

無線イヤホンのイヤーピースを拾ってくれた同じ学校の、だけど知らない謎の後輩女子。彼女はイヤホンの主である井口慶太のことをあれこれ知りたがる。お互い様だということで、ふたりは1日1問、好きなことを質問しあい、それについて絶対答える約束を交わす。

まず目を惹かれたのは、“後輩ちゃん”こと米山真春さんの「あの……」からの「これ、落としましたよ。せんぱい」です! 
知らないことを知り合っていく展開なのに、最初から慶太くんのこと「せんぱい」って知ってるんですよ。出会い頭にいきなりやられました!

そしてひとつのエピソードを慶太くんと真春さんの両視点から綴る構成なんですけど、慶太くんの男子的ひねくれっぷりと真春さんの乙女的な突進ぶりが、じれったくも絶妙な距離感を見せてくれて――
なんでしょう、ある意味決闘って風情? どっちがどっちにとどめを刺すのか気になって、ついつい読み進めさせられちゃうんです。

急がないし焦らない、でもずーっと甘々な恋の戦記。思いっきりおすすめです!

(味があるから人気作! 濃さと厚さの4選/文=髙橋 剛)