特にテーマを設定して作品渉猟をしているわけではないので、取り上げる作品の間に共通性を感じられたときにはちょっとした嬉しさがある。今回あとづけで感じられたテーマは「物語」だ。たとえば"異世界転生"は典型的な物語だが、なぜそう言えるかといえば、これが流行によって一種のテンプレと化したからだ。これに限らず、勧善懲悪から宝探しまで、予定調和とも言える物語の基本構造は、もちろんそれを媒介に様々な形での差異化を試せるとはいえ、その差異化自体が予定の中に組み込まれがちだし、さらに言うならば、そもそも予定通りであることによってエンターテインメントとして成立していることの方が多いはずである。今回の作品たちは、そういった予定調和自体をある種題材にしたものが多く、お約束に乗っ取るか、お約束を逆手に取るかの違いはあれども、そういった問題意識自体がカクヨム内の作品にもちらほら見受けられるのは興味深いことであった。

ピックアップ

見えすぎる妹が、見えない兄を怪異から守る

  • ★★★ Excellent!!!

暮樫或人は怪異が見えない。
一見これは普通のことに思われるかもしれないが、暮樫の家は基本的に怪異が見えるらしく、彼が唯一の例外ということになる。

問題は「見えていなければ存在しない」というわけではないということだ。
これはなかなか小説というメディアの面白いところで、もしもずっと或人の一人称で物語が進むのであれば、怪異たちの存在は、二次創作的には存在するかもしれない潜在的な可能性としてしか把握することができない――つまり怪異は存在しないということになるが、この作品ではもう一人の視点人物として妹の言鳥が活躍する。

言鳥は例外である兄とは異なりもちろん怪異が見えるわけだが、そちらの方はまるで兄の物語の反動でも受けたかのようにオカルト異能バトル然とした物語を展開する。

面白いのは言鳥自身が、兄には見えないものが見えてしまう自分の物語それ自体が虚構でないとどうして言えるのか、というようなメタ視点を持っているところだが、そういった視座がどう展開していくかも一つの見物となるだろう。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

見知らぬ妹の訪問を受け、古書店で制止した時間が動き始める

  • ★★★ Excellent!!!

一昔前の文学的キーワードに「不意打ち」というものがあって、それは凡庸な日常にすぎないものがふとした出来事によって見せ方をがらりと変えてしまうことをひとまずは意味するのだが、もちろん急に自分の知らない妹に訪問を受ける体験が不意打ちでないはずがない。

本作は両親と離れて古書店を営む天崎朝美(27)が、ある日妹と名乗る真昼(8)から両親の死の報せを受けるところから始まる。
とはいえ、それをきっかけ世界の危機などをめぐる物語が動き出すわけでもなく、確かに急に娘のような歳の子を保護しなければならなくなった朝美からすれば大事件だろうが、読者からすればささやかにすぎる日常を描いた日記のような物語が綴られる。
そこではまるで時が止まったかのようであるが、古書店という舞台自体がそういった磁場にある。

本作の醍醐味はそのゆっくりと流れる時間を楽しむことにあるが、実際には8歳の妹を保護することになったことにより、この作品の時間はむしろ動き始めている。
それはいずれ子が親離れすることに基づいた、切ない時間制限の中の穏やかさなのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

ラブコメのきっかけは、いまや自らの手で演出するものになった

  • ★★★ Excellent!!!

ジャンル小説はよくもわるくも伝統芸能化してしまう。
たとえば屋上で出会いがあったり事件が起きたりするという「お約束」がその一つの例だが、残念ながら「屋上は今日も閉鎖されている」。

そんな本作は、ヒロインである最上の「ハーレムを作ろう!」という一言になぜか唯々諾々としたがって奔走する主人公の西下の姿を描いたものだ。
この話でもっとも唐突なのはこの枕なのだが、それ以降は、ハーレムを形成するために一人ひとりの女子生徒たちと真摯に人間関係を構築していく様が非常に丁寧に描かれる。
言うなれば、つまり、ラブコメであることを演じるための努力に余念がないのが本作である。

思えば王道のラブコメは、ヒロインの好意に絶対に気づかない鈍感主人公を中心に構成される内容だったのかもしれないが、いまやキャラクターたちすらもそういうお約束から疎外されてしまったのかと思うと味わい深い。
とはいえ、ハーレムを作り出す努力をしているうちに仲間も増え、本当にハーレムが出来つつあることに気づくというその読書体験それ自体が、実は絶品なのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

多様な文体で綴られる“面”の小話と、謎めいた面売りの艶姿

  • ★★★ Excellent!!!

本作は「面」をテーマにした、もう少し正確に言えば、その世界の暗闇めいたエピソードを「面売り」なる人物とともに見ていくホラーアンソロジーである。

面とはいわゆる「お面」のことだが、転じて人物の顔などを示す言葉でもある。
実は、この面売りが登場するというだけで、作品それ自体はかなり多様である。
口裂け女の化粧から蟇蛙の呪いに至るまで、ホラーといえばホラー、面が関係しているといえば面が関係しているが、かなり趣の異なったお話が展開される。
中には、小悪党の悪事を、面売りがちょっとした「必殺仕事人」として撃退するものもあるが、学校の怪談めいた少し不思議な話から、かなりグロテスクな表現で読者の背筋を凍らせてくるものもある。

本作を読んでいて思うのは、ジャンルとは文体なのだという素朴な事実だ。
私たちは様々な文体を本作で楽しむことができる。
そして、そういった異なった文体による小話を、言わばまたぐような形で面売りが登場していることに気づくとき、キャラクターが文体差を越境しているという事実にもまた気づくのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

少しずつ分析したら異世界語がわかるようになってきた

  • ★★★ Excellent!!!

なぜ異世界転生しても問題なく言葉が通じるのだろう?
こういう質問には、煩雑な前提は、ジャンルが先鋭化した現状においてはいわば“ショートカット”されているのだ、と答えることになるだろう。

そこにきて本作は、異世界転生したら相手の言葉がわからなかったので、頻度分析から初めて相手の言語分析を始めるという、驚きといえば驚きの、そして必然的といえば必然的な営みを始めるのである。

どうも著者は、この作品のために独自言語を設定したようで、魔法の名前や固有名詞の秩序くらいであればファンタジー小説の作者たるもの周到にするものだが、文法構造まで考えるとなると一般読者からしたら狂気の沙汰である。
そして、この手法に挑戦するものにとっては、そういった部分を考えることこそが主題であろう。

こういった営みは、実際に独自言語(アーヴ語)を運用した『星界の紋章』以来である気がするが、そちらの作品よりも圧倒的に言語学的分析が主題となっており、だんだんと記号に過ぎない文章が理解されていくのが私たち読者にも経験されるにおいては、たいへん稀有な読書体験である。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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