見知らぬ妹の訪問を受け、古書店で制止した時間が動き始める

一昔前の文学的キーワードに「不意打ち」というものがあって、それは凡庸な日常にすぎないものがふとした出来事によって見せ方をがらりと変えてしまうことをひとまずは意味するのだが、もちろん急に自分の知らない妹に訪問を受ける体験が不意打ちでないはずがない。

本作は両親と離れて古書店を営む天崎朝美(27)が、ある日妹と名乗る真昼(8)から両親の死の報せを受けるところから始まる。
とはいえ、それをきっかけ世界の危機などをめぐる物語が動き出すわけでもなく、確かに急に娘のような歳の子を保護しなければならなくなった朝美からすれば大事件だろうが、読者からすればささやかにすぎる日常を描いた日記のような物語が綴られる。
そこではまるで時が止まったかのようであるが、古書店という舞台自体がそういった磁場にある。

本作の醍醐味はそのゆっくりと流れる時間を楽しむことにあるが、実際には8歳の妹を保護することになったことにより、この作品の時間はむしろ動き始めている。
それはいずれ子が親離れすることに基づいた、切ない時間制限の中の穏やかさなのである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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