ラブコメのきっかけは、いまや自らの手で演出するものになった
- ★★★ Excellent!!!
ジャンル小説はよくもわるくも伝統芸能化してしまう。
たとえば屋上で出会いがあったり事件が起きたりするという「お約束」がその一つの例だが、残念ながら「屋上は今日も閉鎖されている」。
そんな本作は、ヒロインである最上の「ハーレムを作ろう!」という一言になぜか唯々諾々としたがって奔走する主人公の西下の姿を描いたものだ。
この話でもっとも唐突なのはこの枕なのだが、それ以降は、ハーレムを形成するために一人ひとりの女子生徒たちと真摯に人間関係を構築していく様が非常に丁寧に描かれる。
言うなれば、つまり、ラブコメであることを演じるための努力に余念がないのが本作である。
思えば王道のラブコメは、ヒロインの好意に絶対に気づかない鈍感主人公を中心に構成される内容だったのかもしれないが、いまやキャラクターたちすらもそういうお約束から疎外されてしまったのかと思うと味わい深い。
とはいえ、ハーレムを作り出す努力をしているうちに仲間も増え、本当にハーレムが出来つつあることに気づくというその読書体験それ自体が、実は絶品なのである。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)