概要
薪ストーブの温もりに包まれたフレンチレストラン。
母の誕生日を祝う席で、九十三歳の祖父がふと語り始めた。
それは、これまで誰にも話してこなかった、
幼い頃に出会った「兄のような存在」の記憶だった。
遠い南の島と、日本の農村。
交わるはずのなかった世界が、かつて確かに交わった時間がある。
なぜ、その少年はある雨の日、
土砂降りの中で天を仰ぎ、声を上げたのか。
その光景を見つめていた大人たちは、何を思っていたのか。
語られなければ、消えてしまう記憶がある。
世代を越えて手渡されたその物語は、
「言葉で伝えること」「書くこと」の意味を、静かに問いかけてくる。
これは、実際にあった出来事をもとに綴られた、ノンフィクション・エッセイ。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!優しい慈雨の中に立ち尽くす
これはレビューというより、この作品を自分の中でどう受け止めたら良いのかを考えてしまう、心の内に近いものかもしれません。
薪ストーブの温もりや、歳月を重ねた家族の食卓、この穏やかな空気の中から、「これから語られるのは、軽い思い出ではない」と感じられました。
(その瞬間の気配を、作者さん自身も、あの場で同じように感じていたのだろうか。)
正直に言えば、私には日本の南洋統治について、ほとんど知識がありませんでした。
けれども、ウセノボクくんの存在は、歴史や制度の話を超えて、一人の少年として立ち上がってきます。
そこには、教科書で簡単に片づけられてしまうような歴史ではなく、委任統治という名のも…続きを読む - ★★★ Excellent!!!記憶を採取して封じ込めたノンフィクション
エッセイだと思って読み進めると、そこには物語の深い海が待っていました。
作者様の豊かな情景描写に、まるで同じテーブルに腰掛けているかのような感覚に襲われます。
お祝いの席で語られる祖父の記憶。
それは、遠い地から日本へやってきたひとりの少年の話でした。
記憶の中で語られる少年が、まるで“そこで生きている”ように感じられる。
語らなければ消えてしまうものがあり、語ることで確かに残るものがある。
その意味を、静かに、けれど鮮やかに突きつけられて、ハッとさせられました。
作者様の作品が血の通ったものだと感じるのは、きっと源流に、こうした受け取った想いが流れているからなのだと思います。
私も…続きを読む - ★★★ Excellent!!!奇跡の子から伝わるバトン。言葉は海を越え誰かのこころにそっと寄り添う
ノンフィクションエッセイです。完成度が高すぎるので実際読んでいただきたい。
祖父様から語られる「秘密」の共有。
歴史的背景にも触れつつ、国家の論理ではなく曾祖父様の「ひとりの教育者としての情熱」で言葉を届けるという使命に非常に感銘を受けました。
そして曾祖父様が日本をもっと学ばせたいと連れてきたウセノボクくん。
”雨粒を反射して、キラキラと宝石みたいに輝いていた」瞳の描写。
祖父様にとって5歳年上の落ち着いた少年が、故郷と同じような雨に触れた瞬間の無垢な喜び。
そこまでだと故郷を想い雨に触れて喜んでいるんだと思っていたところ、まさかの名前が現地の言葉で雨に近いという事実。
そして作者様…続きを読む - ★★★ Excellent!!!海を越え、時代を越え、言葉と思いが紡がれる。
作者のみたよしひと様が実際に体験したノンフィクションエッセイ。まずその完成度の高さに驚きます。
93歳のお祖父様がフレンチレストランで語った、とあるお話。それは昭和初期の褐色肌の少年「ウセノボク」君にまつわるお話。
ある時、海を越えた『慈雨』。そこでウセノボク君が起こした行動、受け取った思い。
その意味に大きく心を揺さぶられました。
そこから時を超えて、みたよしひと様の歩んできた道も語られていきます。
物語を描くとは何なのか。言葉にして伝えるとはどういうことなのか。
みたよしひと様の解答が語られます。
是非とも読んでいただきたい一作です!! - ★★★ Excellent!!!なんのために書くのか。語るのか。思いを紡ぐのか。その本質につながる一篇
家族のお祝いの席という穏やかな現在から始まり、記憶、歴史、そして言葉の継承へと静かに深く潜っていくエッセイです。
語りの軸となるのは、祖父が孫に託したひとつの記憶――南洋の地から日本へ連れてこられた少年、ウセノボクくんと「雨」の物語。
本作は単なる回想録に留まりません。
「語られなければ消えてしまう記憶」が、祖父から作者へ、そして文章を通じて読者へと手渡されていく。
その連なりそのものが、このエッセイの主題として浮かび上がってくるようでした。
読み終えたあとに残るのは、どしゃぶりの雨の激しさではなく、ゆっくりと心に沁み込む恵みの雨の温もり。
歴史の影に埋もれがちな名もなき記憶に光を当て、…続きを読む