『甲斐武田後継録　高校教師・義信、元服す』

甲府の高校で歴史を教え、剣道部顧問として生徒たちを見守ってきた武田義信は、定年退職後、病でその生涯を終えた――はずだった。
　次に目を覚ましたとき、彼は躑躅ヶ崎館の一室で、元服を控えた少年として座していた。名は太郎。のちに「武田義信」と呼ばれ、父・武田晴信（信玄）に廃嫡され若くして命を落とすはずの、あの嫡男である。

　現代日本で培った歴史知識と、長年の教師経験、剣道で鍛えた身体感覚。
　そのすべてを武田家の内政と軍略に注ぎ込みながら、信行（のぶゆき）として歩み始めた少年は、「未来を語る予言者」ではなく、「家と人を理解し、少しずつ軌道を変える後継者」であろうと決意する。

　父・晴信に嫌われぬよう言葉を選び、乳母夫・飯富虎昌ら家臣との信頼を積み重ね、いずれ訪れるはずの廃嫡と病死の運命を避ける…続きを読む