第11話 博士の実験

パッ!


「うおっ!まぶしっ!」


オレが部屋に入った途端につく強烈な照明。

さっきまで猫目で暗闇に慣れていた分ダメージが大きい。


「ようこそ、可愛い侵入者さん」


「は、博士か…姑息な事を…」


「おやぁ?私は丁寧におもてなしをして差し上げただけですが?」


博士の相変わらずの余裕の発言。

ここから何とか逆転の方法を…。


「それではさようなら」


ようやく少し目が慣れ始めた頃、博士が何かのスイッチを押した。

お約束ならここで床がパカーンと割れて地下の部屋にご案内~となる訳で。


「セオリーはやはり踏襲しないとねぇ…王道の美学ですよ」


「うああああ!」


何てベタな!本当に床が抜けやがった!博士めぇぇ!

俺は芸人が罰ゲームで落とされる様なマヌケな姿で用意されたその落とし穴に落ちる羽目になった。


「…別に君、死んでから回収したんで構わないんでね…どうせ解剖するんだしその方が手間が省ける」


落ちていくオレを見ながら博士はそうつぶやいた。

あ、あんまり猫を舐めるもんじゃない…ぜ…。


城の最上階から地下のどこかに真っ逆さまに落ちていく…。

ここからだと何メートル落下する事になるんだろう…。

しかしオレが猫だと言う事をあの博士は忘れているようだぜ。


キャット空中大回転~♪


くるりんぱっv


俺は華麗に空中で体勢を立て直し落下先の無事を確認した。

しかし目の前はひたすらに真っ暗でネコの夜目でもそれははっきりとはしなかった。


(最早奇跡を祈るレベルか…)


もし着地地点に爆発物や来突起物があったら無事では済まない。

この穴…もし身体が人間サイズなら手足を伸ばせば両壁に手が届いて落下を止める事が出来るサイズなんだが…。

くそっ!ネコのオレにこの穴は少々大き過ぎる…。


俺はダメ元でハンター7つ道具の中から鉤爪を放り投げてみたが…それはどこにも引っかからなかった。

ならば、と腰のベルトのバックルに付いている紐を引っ張ってすぐに広がるバルーンを展開する。

多分これで落下のショックを和らげてくれる…はずだ。

オレだってこんな展開は想定して手を打ってはいたのさ。


ぷくーっ!


バルーンは大きく膨らんで俺はそれを抱き止める体制になる。

もっと早めにこのバルーンを展開していれば落下の途中で穴を塞いでそこから最上階に戻れたのかも知れないが、判断が少し遅れてしまった為、狭い落とし穴を抜けた地下の巨大空洞でバルーンを展開してしまっていた。


(こ、ここはっ!)


古城の地下に広がる大空洞…そうか!地下で古城と遺跡は繋がっていたのか。

もしかしたらこの古代遺跡は地下ではもっともっと広い範囲に広がっているのかも知れない。

オレ達が知っている古代遺跡なんてきっと氷山の一角なんだ…。


ぼよん!


バルーンが地上にぶつかってその衝撃を吸収する。

オレはしばらくバルーにしがみついたままその衝撃が収まるのを待った。


ぼよん!ぼよよん!


「ふう…」


バルーンのおかげで落下時の衝撃は何とか抑えられた。

真下に特に罠はなかったみたいだ…博士は手が込んでいるようでどこかが抜けている。

最もそのお陰で助かったんだけど…。


ぷしゅー…


落下の衝撃も収まりオレはバルーンの空気を抜いてバックルの中に戻す。

しかし…ここからどうやって戻るか…。


地下に広がる遺跡は広かったが

所々壁が崩れて他の遺跡には繋がらないようになっていた。

これは多分博士が壁を破壊したのだろう。


…取り敢えず、出口を探そう。きっとどこかにあるはず…。

さすがに遺跡の中で餓死だなんてゴメンだぜ…。


くんかくんか…鼻が反応しない…どうやらここらのお宝は全部発掘済みか…。

問題は博士がどれだけの特殊アイテムを所持しているかだな…。

もしかしたらこの様子も監視されているかも知れない…用心に越した事はない。


まずオレは落ちてきた天井を見上げる。

ここから飛び上がってあの穴をよじ登るのは…まぁ無理だな。

落ちたオレを回収するつもりがあるならどこかに出入口があるはずだ。

ここは破壊された壁以外はほぼ手付かずの遺跡の形を保っている。

つまり、その中で違和感を感じる部分が出入口だ。

オレは全感覚を総動員して違和感のある部分を探す。

絶対それはどこかにあるはずだ。


風の流れ

遺跡とは違う匂い

微かな振動

見た目の違和感


どこだ?

トレジャーハンターの威信にかけても、こんな所で躓く訳にはいかない。

オレはこの広がった遺跡を走り回った。

人間では入り込めない隙間に潜ったりもした。


フゥゥン…


これは…空調の音?

探索を続ける中で感じたその微かな違和感を辿ってオレはその場所へと急ぐ。

どうやらビンゴのようだ。

完璧に偽装しているつもりだろうが遺跡の壁の一部が崩れている…ここだ!

そこは遺跡アイテムで偽装しいているようだ…自慢の爪が唸るぜ。


シャッ!


バラバラバラバラバラ…


遺跡と古城部分を繋ぐ扉はオレの一撃であっけなく砕け散った。


「良し!反撃開始だ!」


オレはまたライオットが捕まっている古城最上階を目指す。

破壊した扉の先はやはり遺跡とは違い明らかに最近作られた物だった。

オレは罠を警戒しつつ全速力の最短ルートで上部階に続くルートを探っていく。

待ってろよ博士!今度こそお仕置きだ!


「…ほう、扉を見つけられたか…」


部下の報告を受ける博士。

しかしその様子はまだ冷静そのものだった。

つまりここまでは織り込み済みと言う事なのだろう。


「問題ない…そのまま誘導しろ…計測は続いているな?奴の能力を調べ尽くすんだ」


博士はアルファスの能力をリサーチしていたのだ。

やはりそこは研究者、どんな時も研究第一と言う事なのだろう。


「研究対象は生かさず殺さずだ…あの猫も…この子供もな…」


博士は人質のライオットを見下ろしながらそうつぶやいた。

その雰囲気は猫も子供もただの研究対象としか見ていない冷徹なものだった。

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