第15話 厄介な相棒

チチチ…チチチ…


事件から三日後…トレジャーニュースはベルファクト事件の顛末を記していた。

部下は全員逮捕、主犯のベルファクトは行方不明…。

あの高さから落ちて無事でいられるはずはない…だが死体はどこにも見つからなかったらしい。

後で彼が身につけていた衣服の切れ端だけが辺りに散らばっていたそうだ。

もしかしたらあのフィールドが全てを溶かしてしまったのかも知れない…。


そう言えばあのフィールドだが、何故あれが発生したのか今でもよく分からない。

発生源は多分ずっとしまってあった引き取り手のなかったあのアイテムだろうとは思うのだが、あの中身が何で今オレの身体のどこに装着されているのかもさっぱり分からない。

アイテムが身体に装着されているのは間違いないはずなのに身体に違和感を感じないのはどう言う事なんだ?


フィールドの発生条件も謎であの時以来どう頑張ってもフィールドを発生させられないでいる。

多分あの時のあの異常な状況がフィールドの発生条件を満たしていたのだろう。

あの強過ぎる力を発生させるのに身体にどの程度の負担がかかるのかも見当がつかない。

今のところあの力は使えそうにないのが少し残念だけどその方がいいのかも知れないな…。

あれは取り敢えずトレジャーハントに必要とも思えないし。


ベルファクトに捕らえられていた8人の子供は全員無事に親元に帰って今は元気に暮らしている。

昨日は彼らの親やら親類やら関係者やらからのお礼がひっきりなしに来て大変賑やかだった。

それまで何の接点もなかった8人だが今では深い絆で結ばれとても仲良しになったらしい…いい事だ。


そうそう、街の名士であるベルファクトことテクト博士を倒してしまったオレな訳だが何故か警察からは何のお咎めもなかった。

捕まった手下が洗いざらい吐いたと言っても全くの無罪と言うのは裏で色々とケイタロー警部が動いてくれていたかららしい。

…全く、ヤツには頭が上がらないぜ。

そんな事をオレが考えている内にどうやらまた来客が来たようだ。


「ごめんくださーい!」


ああ…また来た。

声の主はライオットだ。

あれから毎日オレに会いに来る。

何をしに来たかって?


「師匠~!今日こそオレを弟子にしてくださいー!」


これだよ…オレは弟子なんて取らないって言ってるのに。

居留守を使ってもいいが残念な事に彼にはオレの思考が”聞こえる。”

後で分かったんだが遺跡体質者がこの鈴を触るとアイテム持ち主のオレと心で会話が出来る様になるらしい…。

勿論声と一緒である程度距離が離れれば感知は出来なくなるみたいだが、相手がそこにいるのにいないと誤解させる居留守は100%バレてしまう。

全く、厄介な相手に鈴を触らせてしまったもんだ…。


ライオットはオレの心の声が読める…つまりオレの真意を知っている。

それなのに毎日押しかけてくるんだ…どうにかしてくれよ…トホホ。


「ドア、開けちゃいますよー!お邪魔しまーす!」


ガチャッ!


え?何故ドアに鍵をかけないかって?

ライオットが持っているのはあの怪力の特殊アイテムだ。

ドアに鍵をしたところでドアごと破壊されるのがオチって言うね…。

そうなってしまったらオレはこの家を追い出されちまう…。

いくらこの都市が大らかでも猫に部屋を貸してくれる物好きなんてそうそういないのさ。


「何度も言ってるだろ…弟子なんて取らないって!お前は猫が師匠でいいのかよ!」


「師匠こそ人間を弟子にしたくないの?世界で唯一だよ!ネコが人間の師匠をするなんて!」


うーん…世の中には既ににゃんこ先生と言う…いや、この世界とは関係ないからいいか(汗)。

それはそうとライオットの純粋過ぎる瞳はオレにはまぶしすぎる…あんまり見つめないでくれ…。


「弟子にしてくれないならある事ない事言いふらしますよ!」


「あーもう分かったよ!お前がここに来るのはもう許すから!」


「じゃあ弟子にしてくれます?」


ライオットはなんでそんなにオレに拘るんだよ…人生の師匠なんてオレ以外にも沢山いるだろう…。

そもそも子供の内は余り一つの事に固執せず広く学びを深める事が重要だって言うのに…。


「弟子は無理だ…何せオレはお前に何か教えるほど偉くはない」


「そんな!師匠は立派です!多分教科書に載るくらい!」


ううっ!その瞳キラキラ攻撃はやめてくれ!浄化されて溶けてしまいそうだ!

こんな攻撃を毎日受けていたら参ってしまう…せめて神格化はやめてくれ…。


「でも師匠は無理…そうだ!相棒ならどうだ?対等な関係、どっちが上でも下でもない」


「そんな!師匠は師匠ですよ!…じゃあ、間を取って先輩…何なら兄さんでも!」


ふぅ、この押し問答も何度続く事やら…。

しかし普段のオレの仕事っぷりをライオットが見たら考えが変わるかも…。

そう思ったら彼を見習いとして仕事仲間に加えるのはいい考えかも知れない気がしてきた。

どうにかこれでオレに対する幻想が壊れてくれればいいんだけど…。


「分かった分かった!師匠でも兄さんでも好きに呼んでくれ…それじゃあ早速オレの助手として仕事を手伝ってもらうぞ!」


「了解です!師匠!」


ライオットは自分の願いが叶えられてとびっきりの笑顔になった。

オレは何故だか彼との縁がこの先もずっと続くような…そんな予感がしていた。

そしてその事に対して意外にもあまり悪い気がしていない事にオレ自身が驚いていた。


こうしてアルファスとライオットの凸凹コンビが結成された。

やがて二人は息の合ったいい相棒同士となって数々の冒険を繰り広げる事になる。


でも、それはまた別のお話――。



(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫のアルファス にゃべ♪ @nyabech2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ