第13話 激昂する博士

…な…


…え?


…心配するな!


この聞き覚えのある声を聞いてライオットの顔がぱあっと明るくなる!

アルファスは生きている!

生きてこっちに向かって来ている!


「…やはりな」


ライオットの表情でアルファスの生存を確認する博士。

ニヤリと笑ったその顔は実験が順調に進む研究者の顔をしていた。

しばらくして段々屋上に近付く物音が近付いて来た。

そして…


バァン!


屋上に繋がる扉を突き破ってアルファスが登場した!


「待たせたな!」


「ほう…良く無事で…」


「オレが人間なら潰されていただろうさ…だがあの部屋は物が多過ぎた…どうしても潰しきれなかったんだよ」


そう、オレは落ちてきた天井と床の隙間をするっと抜け出したんだ。

あの天井が落ちてきた瞬間、オレはただベッドの上から飛び降りるだけで良かった。

この程度の計算が出来ない博士だとは思えないんだが…。


「なるほど…それでは第二部の幕を開けようか」


博士はオレに向けて悪趣味な手袋をした手をかざす。

オレはすぐにピンと来てその場を急いで離れた。


ビシュン!


博士の手から放たれた何らかの攻撃がさっきまでオレがいた場所を焦がしている。

恐らくこれも多分遺跡の特殊アイテムだ。


「さあ、私を楽しませてくれたまえ!」


ビシュン!


ビシュン!ビシュン!


オレは反射神経を研ぎ澄まして紙一重でその攻撃を避けていた。

しかしこれでは全く博士との間合いを縮められない!


「フハハハハ!中々ダンスが得意じゃないか!」


博士は調子に乗ってオレに攻撃を続ける。

博士にいいように操られているように感じてオレは段々苛ついて来た。


(くそっ!ここまで来て手も足も出ない…)


博士の消耗とオレの消耗なら身体全体を動かしているこちらの消耗の方が早い。

そしてオレの手持ちの装備に遠隔攻撃用のアイテムはない。

だからこうなってしまった場合、相手の攻撃をひたすら避けてどうにか隙を伺うしかなかった。

楽しそうな博士に対して必死の形相のオレ…そんな膠着状態はしばらく続いた。


ダッ!


最初に動いたのが何と人質のライオットだった。

いくら博士がオレとのバトルに夢中だからって何て無謀…いや、勇気があるんだ。

この人質の予想外の動きに一瞬博士の動きが乱れた、チャンス!


ウニャーッ!


オレは一瞬の隙を突いて博士に襲いかかる!

が!


「馬鹿めっ!」


オレの跳躍は結局博士との間合いを縮めただけで結果博士の攻撃を至近距離で受けてしまう事になってしまった。


「ギャニャァァッ!」


「ネコさん!」


博士の攻撃を受けて弾き飛ばされたオレを受け止めたのは博士の元を離れたライオットだった。

とっさに爪でガードしたからかオレが受けたダメージはそんなに大したものではなかったものの、オレを受け止めたライオットが心配そうに顔を覗き込んで来たからオレはとびっきりの笑顔を返してやった。


「大丈夫だ!ありがとうな!」


オレの元気そうな顔を見てライオットにも笑顔が戻る。

たまにはやせ我慢もしてみるもんだな。


人質も取り返したしもうここに用はない…って簡単に博士が逃してくれるはずもなく…。

博士はまた懐から例のスイッチを取り出していた。

何が起こるかは分からないけど今あのスイッチを押されたらヤバい!

オレは反射的に博士に向かって飛び出していた。


シャッ!


「ぐおっ!」


この瞬間を狙われるとは思っていなかったのか博士にオレの攻撃がヒットした。


バキャッ!


オレの攻撃で粉々に砕け散るスイッチ…おお、これも特殊アイテムだったのか。

オレは着地してすぐに体勢を整える。

博士の奥の手を潰した所でまだまだ油断は出来ないぜ。


「よくも…この私に傷を…」


博士の声は怒りに震えていた。

オレがスイッチをはたき落とした時、どうやらその手に傷を負ったようだ。

遺跡特殊アイテムを破壊する爪によって例の手袋も切り裂かれ使用不能になっていた。

これで多少はこちらも有利になった…のかな?


博士は身体を震わせながら指に指輪をセットした。

きっとあれも特殊アイテム!

オレの場合、特殊アイテムはほぼ外せないものばかりなのに博士の持つ物は殆ど取り外し可能な物ばかりだ。

何かズルい…それともこれが人と猫の違いなのか…。

おっと、感心している場合じゃない。すぐ博士の反撃に備えないと!


「ゆ、許さんぞこの畜生めーっ!」


博士は指輪をはめた方の腕を大きく振り払った。

その瞬間に生じた衝撃波は前方の物体を容赦なくなぎ払う!


ズサアァァッッ!


「うあああああーっ!」


オレとライオットは間違いなく射程圏内にいてその衝撃波をモロに受けてしまった。

そしてその衝撃を緩和する術をオレ達は何一つ持ち合わせていなかった。

つまり…


オレ達二人は博士の放った衝撃波をモロに受けて…古城の屋上から吹き飛ばされてしまった!

この屋上から地上まで何mあるだろう?20m?30m?とにかくこのままだと二人共助からないっ!

いや、オレ一人ならまだ何とか…だけどライオットは無理だ!


オレは空中を泳いで落下中のライオットに追いつく。

ライオットは衝撃波を受けたショックで気絶している。

いくら子供とは言ってもライオットを庇いきれる大きさをオレはしていない。


落下スピードは上がっていく…容赦なく加速度をつけていく。

このままだと…何としても彼だけでも助けないと!

このオレの想いがオレの身体に眠る何かとシンクロした!


カッ!


その瞬間、オレとライオットは謎の光に包まれた…。

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