第8話 ベルファクトの正体
オレは体勢を整えてヤツの顔を見上げる。
そろそろオレも脱出の用意をしなくちゃいけない。
さて、奴の仮面がもしオレの想像通りなら…。
一か八かオレはヤツの顔にむけて飛びかかった。
シャッ!
「ぐおおおっ!」
ぱっかーん!
オレの読みが当たった!奴の仮面もまた遺跡由来素材で出来ていた!
素顔を見られまいと顔を隠すベルファクト。
良し!隙が出来た!このチャンスを活かして脱出だ!
「馬鹿め!」
ブゥゥーン!ピシャッ!
ベルファクトが何か操作をすると突然部屋の扉が閉まる。
しまった!閉じ込められた!
「君だけは許さんよ…」
ベルファクトは顔を押さえながら怒りに震えた声でそう言った。
「それに子供なんてまた調達すればいいが…お前をここで逃すともう二度と手に入らんかも知れん!」
「子供を調達だと?」
急に自分語りを始めるベルファクト。
何だ?今度は標的をオレに変更したのか?やばい事になったぜ…。
「そうだ!まずは君だ!世界で唯一の遺跡体質の猫…徹底的に調べつくしてやる!」
そう言ったベルファクトはもう自分の顔を隠してはいなかった。
両手を広げてマッドサイエンティストの本性を表した奴の顔は…。
「な…っ!まさか!」
世間を騒がせている仮面の悪党ベルファクトの正体はこの遺跡都市で一番名の知れた科学者、テクト博士だった。
遺跡研究の第一人者で遺跡から発掘される特殊アイテムにも造詣が深い。
表向きは善良で温厚な科学者として評判も高い…まさかそれが偽りだったとは…。
「テクト博士…貴方だったのか…」
「今更正体なんて隠す必要もない…何故なら今から君は私の貴重な実験動物となるのだから…」
ベルファクト…いや、テクト博士はそう言うとジリジリとオレとの間合いを詰めて来た。
オレはその気迫に押されジリジリと後ずさる…。
さっきまでの優勢が嘘みたいだ。ヤバいな…。
オレの野生の勘が危険を察知して警戒警報を発令していた…。
ある程度部屋の隅にオレが追いやられたところで博士が何かの合図をした。
ガッシャーン!
その瞬間、天井と床下から金属の棒が伸びて来てオレは閉じ込められてしまった。
これがまた遺跡由来素材ならば何て事はなかったんだが…。
「ふはははは!そいつは破壊出来まい!何せ最新の遺跡由来素材と現行金属とのハイブリッドだからな!」
高笑いしながら博士はオレを見下ろしている。
確かにこれではオレの爪じゃ歯が立たない。何てこった!
「いい眺めだな…お前は準備が整い次第すぐに解剖してやろう…」
冷酷にそう言い放つ博士の顔は邪悪そのもの。
この男は一度口に出した事はどんな事があろうと必ず実行する…そんな凄みに満ちていた。
「楽しみだよ…私も遺跡体質の猫を解剖するのは初めてだからね…」
博士はそう言いながら部屋を後にした。
オレ、万事休す…(汗)。
一方、逃げた子供達は無事城の外に脱出していた。
博士の興味が完全にオレに移った事で子供達は追手に追いかけられる事もなく脱出出来たのだ。
子供達はオレがすぐに城から出てくるものと思いしばらく待っていたみたいだが、その様子が見られない事で状況が変わった事を理解した。
…ちゃん
…ネコちゃん!
声が聞こえて来た…どうやら子供達からだ。
…どうしたの?ネコちゃん!もしかして捕まっちゃった?
オレは子供達を安心させようとつぶやく。
「ちょっとヘマをしちまったが…何とかしてみせるさ…」
鈴の能力は心の声を聞くだけ…送受信の能力はない…そう思っていた。
だからそれは自分に言い聞かせるようにつぶやいたんだが…。
…ええっ?大丈夫!
…今どんな感じなの?詳しく教えて!
さっきのオレのあの弱気な言葉に返事が返って来ていた…。一体どう言う事なんだ?
取り敢えずオレは口に出さずに心の声で応答してみた。
理由はよく分からないけどこれでやり取り出来るなら何かいい案が思い浮かぶかも知れない。
(驚くなよ…ベルファクトはテクト博士だったんだぜ…)
…知ってる。だって僕達テクト博士の科学教室に呼ばれて捕まっちゃったんだもん…
そう言う事だったのか!あの時のテクト博士のすぐ調達出来るって言葉の意味は…。
確か博士の研究のひとつに遺跡体質者の研究があった…なるほど、子供達を実験に使っていたのか…。
…僕、博士との実験で使ったアイテムをひとつ持って帰って来たんだけど、これ使えると思う!
(ま、待て!折角脱出出来たのにまた城に戻ってくるとか危険過ぎる!来るんじゃない!)
…ううん、僕らを助けてくれたネコさんが逆に捕まったんじゃ意味ないよ!絶対助けるから!
な、何て正義感に溢れたいい子供達なんだ。オニーサン、涙が出そうだよ。
こんな子供達を実験に使っていたなんて、テクト博士、許さないぞ!
…て、今の自分には手も足も出ないんだよな…(汗)。
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