第10話 ライオット救出作戦

「もう質問は終わりかな?」


オレと博士の間に沈黙が流れる…嫌な沈黙だ。

銃での攻撃は簡単に避けられると踏んで博士は多分別の手でオレを倒しに来る…。

その手段が分からない内はうかつには動けない。

博士は博士で余裕を見せてはいるがすぐに動かないところを見るとこの距離で仕掛けるには何かリスクがあるのだろう。


俺はどうにかヤツの心の声を聞こうとしてみたが何かが邪魔をして聞く事が出来なかった。

どうやってこのアイテムの事を知ったか分からないが対策済みって訳だ。

この膠着状態はしばらく続いた。

どれくらい時間が経っただろう…やがてその沈黙を破るように警戒音が聞こえてきた。


ファンファンファンファン…


パトカーの音だ!子供達が警察を呼んでくれた。

うっし!これから反撃に出るぞ!

と、オレが気合を入れていると…。


「ほう…警察を呼びましたか…ならば子供は人質と言う事にしましょう…返して欲しければ奪い返しに来る事だ」


警察の接近に気付いた博士は一度外の様子を伺うと姿を消してしまった。

あれは…特殊アイテムの力?

そうか…博士もまた遺跡体質者…。

オレはこの戦いが一筋縄では行かない事を覚悟していた。



「逃げられたのか…」


唖然としてるオレに声を掛けたのはケイタロー警部。

昔、遺跡でのある事件をきっかけに仲良くなったオレの古い友人だ。


「ベルファクトの事、警察はどこまで掴んでいる?」


「お前が知っている事は大体把握しているさ…」


「やはり問題は上層部か…」


やっぱりオレの想像通りだった。

テクト博士はこの都市でもかなりの実力者。

それなりの根回しも完璧って訳だ。

だが、そんな姑息な手段も生え抜きや末端にまでは届かない。


「出来るだけ協力したいところだがな…」


「その気持ちだけで十分さ…ヤツには正攻法じゃ届かない…」


オレは今後の作戦を考えていた。

鈴の力で人質のライオットの心の声をたどればヤツの居場所は多分分かるだろう。

ヤツもそれを見越しての挑発だった…。


オレは古城の捜査を続けるケイタロー警部に別れを告げ一旦自分の家に戻った。

市街地まで戻るとさっきまでの緊迫感が嘘みたいに静かで落ち着いている。

今日も本当はこの流れで昨日の続きを楽しむものだと思っていた…どこでどう変わるか分からないものだな。

いつだって日常の影に隠れて非日常が潜んでいる。


さて、どんな準備をすればヤツに勝てる?

遺跡素材破壊の爪、人の心の声を聞く鈴、そして人並みの知性を得る腕輪…これらは標準装備だ。

手に入れたお宝は大抵すぐに売っていたから今部屋に残されているのは…。

どこにも引き取り手のなかった怪しげな箱に入っているこのお宝だけ…。


確か鑑定に出したらニセモノだって言われて突き返されたいわくつきのシロモノだ。

捨てるのも勿体ないからいつか物好きが現れたら売りつけようとずっと持っていた。

こんな事態だ、せめて中を確認してみよう…何か使えるものならば…。


パカ…


「う…うわあああ!」


オレはその後しばらく気を失っていたらしい…。

床に倒れたまま目が覚めたらそれから2時間が過ぎていた…。

箱に入っていたであろうお宝は…姿を消していた。

やはり中身は特殊アイテムだったのだろうか?

だがオレの身体に何の異変もない…。

オレの身に何かが起こったと言うのか…訳が分からない…。


博士はオレにいつまでに助けに来いとは言わなかった。

だがいつまでもこのまま放置している訳にはいかない。

今頃オレを助けてくれたライオットが怖い目にあっているかも知れない。


(待っていろよ…必ず助けてやる!)


オレは特殊アイテム以外の装備を整えて…泥棒の時に使う装備とか…意を決して家を出た。

夜空には丸い月がオレを加護するように淡い光を放っていた。


心の声に耳を澄ます…胸の鈴が反応する…。


…むにゃむにゃ…ネコさん…


あ、寝てる…(汗)。

今はちょうど子供は寝る時間だからな…けど、ちょうど夢を見ていて助かった。

夢を見ていなかったら前みたいに声を拾えずに途方に暮れていたところだ。

さあ、あの子が夢を見ている間に辿り着かないと…。


ライオットの声の元を辿るとそこはやはりあの古城だった。

警察の捜査は済んだのか古城の周囲に人影は見られなかった。

オレは古城を見上げる…最上階…あそこだ。

夜がネコの本領発揮と言う事をあの博士に思い知らせてやるぜ。


抜き足、差し足、忍び足…。

いつも遺跡のトラップ回避で鍛えたこの技を見ろってんだ。

いや、発見されたら厄介か…前言撤回。


オレは慣れた手つきで最上階へと向かう。

何故か恐ろしいほどに静かだ…まさか博士まで寝ているのか?

オレは案外あっさりと最上階まで登り切った。


(ここまで罠ひとつないなんてあまりにも変だ…)


俺は警戒しながら歩みを進める。

そしてついにライオットが捕らえられているドアの前まで来た。

ここまで来てやっぱり何も起こらない…しかも


カチャ…


ドアに鍵すらかかっていない…だと?

俺は足音を立てずゆっくりと慎重に部屋に侵入した。

元々猫だから足音なんて立てようもないんだけど…。

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