柔らかな場所でたゆたうように。風さん、まだ来ないでね?


 フウチ君が玻璃の音*書房っていう本屋さんを中心に、何気ない日常を語ってくれるお話。柔らかい空気で包むように優しくお話ししてくれるから、時間がゆっくりと流れてるんだ。
 心に触れた小物や、いっぱいの思い出の中で色の付いている記憶を紹介してくれるんだけど、センスが良くて楽しい!作品世界を作った人の人柄をかいま見られたりするからね。
 作品の全体を楽しめる。

 でも、フウチ君はどうして僕たちにお話ししてくれる気になったんだろ?




 小説ってすごいよね。
 読んでる人の時間や感情を自在に操ることができるんだもの。
 この作品を読んでいると、時間の感覚がゆっくりになってふわふわしてくる。いつの間にか、作品の中に入ってて漂っているんだ。
 どこか懐かしくて、繊細で手触りのいい何かに包まれて漂っている。玻璃の音って言うんだって。綺麗だよね~
 あるところにはね、時間を止める事ができるお話があるみたい。でも、時間を止められるのは一瞬だけ。時間をゆっくりとのばせる方がすごいと思うんだ!
 お話が進むにつれていろんな物たちが増えていくよ。最初は少し不思議な書房があるだけ。僕たち読者は書かれることで存在を認識できるからね。
 そして、少しずつ仲間が増えていって、小物たちが置かれていって、世界に色が付けられていく。四季色のパステルカラーは玻璃の音に混じり合って、確かな感触を伴ってくるよ。
 それらに触れていることで、僕たちの時間はどんどんゆっくりになっていくんだ。
 世界を紹介してくれているのはフウチ君。だから、この世界の時間を操っているのは、実はフウチ君なんだ。でも、本人は気が付いてないかも。
 お話の中の時間だけが進んでも、季節がいくら巡ったとしても、お話の中の時間は進まないんだ。フウチ君が変わらなければ、時間は進まない。
 ここはそういうところ、僕のいる世界とはちょっとだけ違うね。

 でも、どうしてフウチ君は時間をゆっくりにしているんだろう?




 きっと、変わらないでほしいんじゃないかな。

 このゆっくりとした世界も、みんなとの関係も。一歩でも進めば、目に見える世界は少しだけ変化してしまう。それが嫌なんだって感じた。
 いつまでも一緒。それを願うのは、いいことでも悪いことでもないもん。
 前に進めなくなっても、きっとみんなは合わせてくれると思う。柚子さんは優しくしてくれるし、みんなが隣にいてくれる。
 いいよね。

 僕は、そんな世界が続いてもいいと思うんだ。
 ずっと、ずっと。

 いっぱいお話を増やしていって、どんどん時間をゆっくりにしていって。
 もし、ね。積み上げたお話で書房の出口が塞がってしまっても、きっと粉雪さんは側で愛おしく思ってくれる。
 留まり続けようとする世界を結晶に変えて、いつまでも側にいて微笑んでくれる。粉雪さんはそういう強さを持ってると思う。



 でも、きっといつか風が背中を押しに来るんだろうね。
 そうして、世界が変わっていく。

 でも、それまでは優しい世界にたゆたっていたいな。
 そう思うのは悪いことかな?

 でも、この作品を読んだみんなは、そう思うんじゃないかな?
 だって、この世界はとっても--
 とっても居心地が良いんだもの。




 連載二十話越え、お疲れ様!
 ☆+1

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