玻璃の音*書房

水菜月

冬のものがたり

第1章 森の少年と檸檬

第1話 玻璃の音*書房


ぼくは 森に住んでいる

歩いてきっかり50秒のところに 玻璃の音*書房はある


焦茶色の古い木で造られたその本屋は

先代が硝子集めがすきで

あちこち種類のちがう硝子が使われている


玻璃はりとは、硝子ガラスのこと

*水晶 *非結晶質の物質 *きらきらしたもの


重い木の扉には 色のついた硝子がはめ込まれ

その日の光によって 違う表情を見せる


大きな窓は小道に面して 外からでも本棚がよく見える

木の枝が凍えそうに窓に映り

透明な風が身体を通っていく気配


硝子を叩く風の音が だんだんつよくなる

雪がやってくるのは もうすぐだ


彼女がグラスを置く コトリとした音

音たちは ぼくの 誰かの 遠い記憶を呼び覚ます



今日もぼくの本は売れていない

売れるとその日1日、代わりにレモンが置かれるから


ぼくは冬眠はしない

木の実を集める必要もない

言葉がやってきて 自分の中に集まるのを待っている


反対側に住む砂糖さんが

しかめっつらでやってきて 冬の本を買っていった


残ったのは、レモン

この上なく レモン色の檸檬レモン



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