僕はラヴクラフトによる原作を読んだ事が無いのですが、ゲームや映画、アニメや漫画等で表現された「クトゥルフ神話」作品群には触れた事があり、本作品もそういった作品群のひとつだと理解し、拝読させて頂いた次第です。
まず最初に心惹かれた点は、濃密なホラーテイストを醸すに相応しい重厚な文章表現と、そこから描写される緻密な世界観でした。
克明かつ丁寧に、奇怪な現象や事件に翻弄される人物や世界が描かれており、そのずっしりとヘビィな文章表現が、粘着質なクトゥルフ神話のイメージにピッタリと嵌ります。舞台となる街並みや扱われるアイテム、小物、人物描写の的確さ、作中発生する恐怖演出のハードさに戦きながらも、しっかりとした、地に足の着いた文章表現にて、心地良く読み進める事が出来ました。
また本作の主人公であり、各エピソードの語り部となる事も多い怪人物・夜鷹氏が、非常にハードボイルドかつダークヒーロー然とした佇まいであり、作品の重々しい雰囲気にマッチしつつ、アクション要素がストーリーに加わる際、説得力のある造形として、素晴らしく仕上がっていると感じます。
その一方で、エピソード途中にちょくちょく挟まれるダークなコメディ表現が妙に面白く、洒落ており、洋画ホラー作品で例えるならば、サム・ライミ監督の「死霊のはらわた2」や「キャプテン・スーパーマーケット」、漫画で例えるならば楳図かずお先生の「神の左手悪魔の右手」といった様な、怖すぎて笑ってしまう、恐ろし過ぎて笑ってしまうという、極限まで追いつめられた人間は、泣き叫ぶより笑ってしまうのだという、そういった事をコメディ的センスを以て説いている様で、このダークな笑いの要素も、とても良いスパイスになっていると思います。
様々な時代、様々な国、様々な場所で繰り広げられる怪奇と幻想の残酷絵巻、それに巻き込まれる様々な人々、魅力的なキャラクター、怪異人外の存在、吹き荒れるアクションとバイオレンスの嵐……これは読んで損の無い名作だと感じた次第です。
ラブクラフトのテーマは人間では到底太刀打ちできない恐怖。
登場人物はただ神話的存在から逃げ惑うかそのまま飲み込まれるかしかない。
これまでバトルアクションばかり書いてきた私にとって、世の中にはまだまだ不条理な恐怖があることを嫌でも突きつけてきたのがクトゥルフ神話です。
まさに私にとって手の届かないもの。これをテーマに書くのは無理だと思ってきました。
だから夜鷹との出会いは二度目の衝撃。
そんな不条理を腕力だけで叩きのめす人間がいたなんて。邪神の加護があったにしても、です。
この小説との出会いは、まさに追い詰められた一般人の前に颯爽と現れるヒーローの作品を生まれて初めて読んだ時の瞬間に近い。
Fateでいうなら主人公が偶然召喚したセイバーと初めてご対面した時そのものです。
夜鷹の魅力はそれだけに留まりません。
ほぼ生身でも異形を殺せるほど強いし、若い姿のまま永い時を生き続け、それでいて同士と時には協力し、被害者をさりげなく気遣い、一般人でも悪人には容赦せず、美しい女性と惹かれ合い、失恋し、敵といえど愛ゆえに手にかけることができない弱さも併せ持つ。
そうした多面性がまた彼の魅力なんだと思います。
個性溢れる黄色い印の面子も物語で役割を果たしてるとこがいいですね。個人的には黒髪眼鏡の発砲狂娘ことクリスがいい味出してると思います。あと第7話の少年にもまた出てきてほしいです。最年少の黄色い印メンバーとして。彼と夜鷹の絡みがもっと見たいです。
あと、二十世紀初頭のアメリカが舞台の話が多くて好きです。ホームズ存命中のイギリスもそうですが、昔の欧米が舞台の作品っていいですね。ゴシックホラーな雰囲気に満ちていて。
今後はサイバーパンクな未来世界が舞台の話とかもあるんでしょうか? クトゥルフは地球外生命の一種だからSFな世界観と相性が良さそうなのでしっくりきそうです。
あと現代日本の話も個人的には好きです。ルールブックやリプレイみたいに大正とか昭和の日本が出てくる話も読みたいですね。夜鷹顔負けの戦闘能力を持つヒロインにも出てきてほしいです。アンヌとは違って接近戦が得意そうな美人さん、特に刀を使う女性キャラ好きなので。
最近読み始めたので今後の更新楽しみにしています。
素敵なラブクラフト作品ありがとうございます。
本作はクトゥルフ神話を背景にしたオカルティックなダーク・ヒーロー小説だが、クトゥルフにいっさい親しんでこなかった読者でも楽しむことができる。
というかむしろ、クトゥルフのピュアな世界観を味読できるという点ではおすすめの作品である。
クトゥルフを読む上でついてまわるキーワードは宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)だ。
身震いせずにはいられない根本的な恐怖や不安が人を突き動かす様子が、いくつかの時代にわたって描かれていて非常に巧みで、
近年もTRPGとしてもプレイバック的に流行している要因にはこういった懐の広さもあるわけだ。
また、クトゥルフがラブクラフトによるフィクション体系として書かれていることは当然有名だが、そのこと自体について語る登場人物たちが、真実と虚構の境界を揺さぶってくる様子も絶品。
そしてなにより、数世紀以上に渡り邪神たちと争ってきた仮面の夜鷹・ウィップアーウィルの活躍が、御託をひとまず飲み込んで刮目すべき格好よさなのである。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)
クトゥルフ神話を題材にした小説で最も難しいのは、前提の知識でも、邪神の起用法でもなく、空気の表現だと個人的には思います。
この作品が数多あるクトゥルフ系の作品と比して突出しているのは、まさにクトゥルフ独特の空気感を上手く表現できていることではないでしょうか。
夕暮れに鴉が不気味な鳴き声をあげているような、路地裏で痩せた犬が誰もいない場所に向かって吠えているような、漆喰塗りの家々に囲まれているのに墓場の中にいるような、そんな空気感。
そこで活躍するのは、これまた異常にカッコイイ謎のヒーロー。
ましてや、目的が正義の執行なんて気配は欠片もなくて、ただ害虫を潰して回るだけの大雑把さ。
自分一人で星5個くらい付けたいです。
読ませていただき、ありがとうございました。
世界中に根強いファン、いやもとい信者を多数擁する暗黒神話ことクトゥルフ。
だがそれらが内包する神々、体系、各地に伝わるエピソードはあまりにも厖大だ。
この作品の主人公ウィップ・アーウィルはその神話の新参者ではなく、はるか昔から『在った』ジグソーパズルの1ピースであるかのように描かれている。
そこに作者の力量のみならず腐心したさまが伝わってくる。
クトゥルフ初心者に対しては無味乾燥な箇条書きではなく、ストーリーを通じて押しつけがましくなく読み解かせてくれる。
ウィップ一流のユーモア、ジョークを端的に示すようなルビの振り方に、古参の邪神ファンもニヤリとさせられる、はず。
一言で表すなら躍動感。
クトゥルフ神話の中にアメコミのような要素に、それ以上に感じたいろんな時代特有の人間模様とその背景。
そして魅力があふれんばかりの『夜鷹』というキャラクター。
まず感じたのは衝撃そのもの。
冒頭からの夜鷹の登場から既にかっこよかった!
こんなにもドキドキとワクワクが膨らむとは……!
他にも色々ありますが、最初からこんなに惹きつけるとは思わなかったというのが正直な感想です。
それにホラーというだけではなく、バトル要素も入っているという点でも非常に素晴らしい。
クトゥルフ初心者でも楽しめる作品なのでぜひ堪能してみては?
この作品の魅力を書くとしたらなんだろう。
分かりやすい文章? クトゥルフを知らない人にも親切な構成? それとも最高にクールなヒーロー?
この作品だったらいずれも楽しむことができる。
でもあえて一つ挙げろと言われたら、私はこの作品の第一話が日本語で書かれたとびきり上等なジャズ・エイジだという一点でオススメするだろう。
退廃、混沌、繁栄、悲惨極まりない第二次世界大戦の直前に一瞬だけ訪れた黄金の夢。ジャズ・エイジ。
その輝きをあますところなく描写した作品はクトゥルフの原点であるにも関わらず、日本の創作では実に貴重なのである。
神話生物から漂う汚穢、恐怖、未知、それらの多くがこの黄金の時代の想像力を元にしているにも関わらずだ。
ともかく第一話を見て欲しい。第一話を見てしまえば貴方もきっと引き返せなくなる筈だ。
実際の所、ジャズ・エイジ以外にも1950年代アメリカ、現代アメリカ、現代日本を舞台にしている(その上いずれの描写も素晴らしい!)のでクトゥルフを知らない人でもクトゥルフを知る切っ掛けになる作品にもなる。
だがそれらの魅力に関しては他のレビューに任せることとする。ともかくこの第一話、それと個人的に大好きなニャルラトホテプが活躍する第六話と猫の可愛い第十三話を是非楽しんで欲しい。
でもそうなると若き怪物の肖像編を勧めずに入られないしええいともかく全部読めってことになるのである。全部読め。
TRPGからクトゥルー神話の存在を知り、H.P.ラヴクラフトの原作に手を出した人は多いでしょう。私もその一人です。
しかしラヴクラフト、非常に読みにくい。難解な英語を日本語訳したものなので二重苦です。私、斜め読みには自信があったのですけれども、「インスマウスの影」を読み切るまでに一時間以上かけました。「闇に囁くもの」は途中で飽きて放り出したレベル。
そんな有様ではありましたが、ラヴクラフトの著作に流れる独特の空気感というのは感じました。いつかもう一度読みたいと思っていました。
そんな所にこの作品を知りました。そして思いました。ラヴクラフトだ! 日本のサブカルチャーで書かれたラヴクラフトがいる!
ラヴクラフトの作品に流れる空気感を継承しつつ、文章はとても読みやすく。神話的存在をぶちのめすカッコイイヒーローも登場する。
ラヴクラフトを投げたクトゥルーファンこそ読んでほしい作品です。そしてラヴクラフトに再挑戦するのです。
いあ! いあ!
クトゥルーの事は深く存じませんが、作者が燃えるハートとクールな頭脳を、缶詰ではなく強靱で繊細なボディに納めたナイスガイであろうことは、作品を読めば一目瞭然。
この作品を象徴するのは仮面のヒーロー ウイップアーウイル!
夜鷹が現れるところ、風雲急を告げ特大級のヴァイオレンスの嵐が巻き起こり、邪神だろうが、宇宙昆虫だろうが、人造人間だろうが、缶詰であろうが、夜鷹の放つ一撃必倒のニッポンのバリツは無敵!無敵は素敵だぜ、ウイップさん♪
時代を超え、場所を超え、おどろおどろしき毒島ワールドにテンポよく展開する物語の構成に唸り、無駄をこそぎ落とした冴え渡るアクション描写の爽快感に漬りましょう。
"毒島ナイスガイシリーズ”の第一作 仮面の夜鷹の邪神事件簿
お前には夜鷹の鳴き声が聞こえるか?
ミテクダサイ
ーー夜鷹の鳴き声は聞こえるか。
クセになるワンフレーズとともに、現れる黒い男と、禁酒法が施行されていた時代の古き良きアメリカ、そしてその陰に潜むものたちから始まる物語。
それらが緻密な描写によって、脳裏に描かれ、筆者の書く世界観にのめり込んで行くのが心地よい作品です。
クトゥルフはもちろん、昔の荒っぽくてクールなアメリカやセイラムの魔女、そして我らが現代日本まで、様々な国や時代で活躍する夜鷹の姿に胸が躍ります。
クトゥルフが好きな人に、そして、読んだことはなくとも、ヒロイックな活劇が好きな人にも、ぜひオススメしたい。
序盤の数話を読んだ貴方はまず、このタイトルみたいな印象を受けるだろう。
闇夜を駆け抜け、神出鬼没。年齢も正体も分からず正義の味方でもない。邪神の元、己が信念の元、神話生物をぶちのめす。
多くの謎を持ちつつウィットに富んだジョークも言う彼は、ダークヒーローの中でも格別魅力的だ。
洋画の様にクールで爽快。
人に熱く震える決意をもたらして。
セピアがかった写真の様に時代が映り込み。
人々の感情が渦巻き、時に為す術も無く悲しみに飲み込まれていく。
この物語ではこうやって、多くの人間が彼を語る。
その一言一言の片鱗が、我々にウィップアーウィルを伝えてくる。
それは地球の、歴史の片鱗であり彼の生きてきた片鱗だ。
こんなの、心揺さぶられる物語だって決まってるじゃないか。
読み進めれば進む程、その片鱗は貴方の中に夜鷹をつくる。
夜鷹の現れるさまが、彼の姿がその技が、脳裏に浮かぶ。
そうなった貴方の心臓は、既に鋭い鉤爪に囚われているだろう。
最後の一文字まで読んだ貴方の元に、彼はきっと現れる。
その時聞いてくれ。
なぁ、夜鷹の鳴き声は聞こえるか?