走れ。探せ。癒せ。ヅッソの機転が不可能を可能に変えてくれる。

竜を手術する…こんな発想、聞いたことありませんでした。
これだけで「凄い」な、と直感できます。架空の医術とはいえ、これは相当に緻密な取材をしなければ書けない代物です。
それを果敢に挑み、手術に用いる道具や魔術をクエストするという斬新な物語は、寝る時間を削られてしまいました。今日職場で居眠りしちゃったらどうしてくれるんですか。

世界設定も奥が深いです。
かつて海底に繁栄したマーフォーク、フレグマ。魔創語、魔譜。
七星列島という独特の地形、新大陸の歴史など、練り込まれた舞台背景を小出しにされるだけでも胸が躍ります。きちんと作者の世界が出来上がっています。

風俗文化にも触れており、手術に関連するとはいえ麻薬の取り扱いから、娼館の様子、果てはシャワーの仕組みまで筆を費やしているのは感心しました。

また、登場人物も熱い。
手術を行なうドゥクレイ医師、語り部役である宮廷魔術士ヅッソ。ミスリルの剣を巧みに使いこなす剣士トリヤ、歪め屋ケティエルムーンなど、一癖ある人物ばかり。

「斬の章」の冒頭で、しょげ返るヅッソに発破をかけて励ますクレナなど、各人の想いをぶつけて掘り下げるのもお見事です。

あと、この小説に出て来るお酒って、めちゃくちゃ美味しそうですね。優れた書き手は、こうした食事のさり気ない筆致も達者です。

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