命の扉を叩く物語

作中でも触れられていますが、『ヒヨコの世界』をテーマにした子供の成長物語でした。外の世界に生まれ出るためには、雛鳥は卵の内側から殻を突かなければならない。それまで外界から自分を守ってくれた『世界』を、自らの意志で破壊しなければならない。

各人の優しさ、孤独、悩み。それらがすれ違い、食い違い、上手くいっていなかった現状が、少しずつ擦り合わされていく温かな物語でした。
現代的な人間ドラマ、しかし普遍性も含まれている良作だったと思います。
しかしそれだけに、幸也が周囲と距離を取るきっかけになった『超能力』の要素が浮いて見え、キャラクターの精神年齢も高すぎるようにも感じました。

とは言え新たな世界への扉が開かれた読了は爽やかで、未来への希望が見えるラストで良かったです。胸の奥からじんわり温かくなる想いでした。
『命』という漢字は、『人』の内側にあって激しく『叩』くものがいる。そんなお話も思い出すような作品でした。

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