万人受けする普遍のテーマへのチャレンジ

社会から遊離してしまった少年と、それを思いやる少女の恋愛小説である(男女の友情とあるが、この内容では恋愛にしたほうが良いであろう)。
作者は小説を書き始めて日が浅いと思われるが、自分の経験と学んだ文章を組み合わせてテーマに沿ってこの分量を書ききっており、まずは最初のハードルを超えた作品と評価したい。
特に真由美の心情は詳細に描かれており、やや早熟過ぎるものの、迷いを抱えつつ前向きにそれを解決する姿は魅力的である。また家族関係がしっかり描写され、その中での真由美と幸也の立ち位置が明確であるため、2人の距離感は真に迫った、厚みを持つ内容に仕上がっている。
その一方で、文体と展開には課題が多く残されていると思った。以下、私見をいくつか述べてみたい。
まず、キャラクターが多く、話の展開がゆっくりしすぎている。もっと幸也か真由美どちらかの変化を中心に据えて、周囲のキャラクターは大胆に減らしたほうがテーマを押し出せそうに思う。全般にわたり、何が起こったから主役2人が変化したのか、何があったから2人の関係が変わったのか、の表現が薄い。挨拶や状況説明のシーンが多く、ともすれば字数稼ぎのように見えてしまう。この作品に関しては、総分量が半減したとしても面白さはそれほど損なわないであろう。現時点では相当に冗長である。
また、群像劇ではないのだから、どこに視点を置いて読む作品なのかは露骨なくらいハッキリさせてほしい。ダブル主人公で行くならチャプターごとに幸也と真由美の一人称を交互に見せた方が明快だし、三人称形式でいくならチャプターのタイトルに語り手となるほうの名前を明記してみる方法もある。大きく改稿するならば、真由美または幸也のみを主人公にしてみてはと思った。
最後に文体だが、センチメンタルな話の割りにかたい表現が目立つように感じた。二字熟語を可能な限り訓読みに替えて、柔らかさを出すことで質を上げられると思う。感慨、神妙、陰鬱、などの表現を避け、深い思い、落ち着いた、暗い、などに置き換えた方が、このタイプの小説には向きではないだろうか。
以上、全体的なスリム化と文章のブラッシュアップが望まれるが、少年少女の心に寄り添った、多くの読者の心をつかむポテンシャルを感じた。将来的には大きく化けそうなので、本作の改稿でも新作でも良いが、ぜひ長編にチャレンジし続けて欲しい。

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