【ネタバレあり】橋によって繋がれるもの。

レビューの中に、この作品の真相に触れる部分があります。未読の方はご注意ください。





mikio氏による『あゆてつシリーズ』の第一作目『ジャンピング・ジャック・ガール』は、ヒロインである川原鮎があさ登校するためにある「橋」を渡る描写から始まる。
すでに本作を読み終えた方はこの「橋」が本作における重要な舞台になっていることはご存じではあると思いますが、まずこの「橋」の役割について考えてみたい。

橋とはそもそも低地や川などにより隔てられた場所と場所とを繋ぐために架けられるものだが、この作品ではかなり明示的に日常と非日常とを架け渡す役割をあたえられている。
日常と非日常。こっちがわとあっちがわ。此岸と彼岸。言葉はなんでもいいが、何やらあっち側の世界ではこっち側の世界とではまったく違うシステムで世界が動いているようだ。

第1章で鮎は橋を渡り終え交差点に入ろうとした瞬間「軽トラ」にはねられかけ自転車に急ブレーキをし事なきを得るが、そのために同級生である泉田秀彦の落下を目撃し、以後亡き親友の死の謎を探る敷島哲と共に非日常の事件の渦の中に入っていくことになってしまう。

ここで鮎の兄である流がサッカーの道をあきらめ五十海に帰ってくることになってしまった原因を思い出してもらいたい。流は進学先で白い「軽トラック」にはねられ足に重い障害を負うことになる。この白い軽トラックという符合。(本作ではジャンピング・ジャックのメールの送信に使われる白いプリペイド式携帯電話や、坂下亜里砂が飛び降りた後に交換された真新しい室外機といい「白」はなにやら不吉な色として使われている)

また第8章のクライマックスではこの橋の上を舞台に事件を影で操る「真犯人」との対峙。そして異様な雰囲気のなかでの最終的な謎解きが行われるが、これは橋の上という舞台の特性をおいて語ることはできない。

ここで物語と鮎の心は日常と非日常を架け渡す橋の上で、こちら側とあちら側を繋ぐ橋の中心で、大きく大きく揺れ動くことになる。
兄・流を殺すか殺さないか。

つまりこの『ジャンピング・ジャック・ガール』という物語はヒロイン川原鮎が「橋」を渡るか渡らないかの物語なのである。
橋を渡り兄が構築した理(ルール・システム)が支配する非日常、橋の向こう側の世界に身を置き続けることになるのか。
それとも兄・流とは対比的に描かれる同じく身体の障害によりサッカーの道を挫折しながらも腐らず生き続けるパートナー敷島哲と共に日常の世界に回帰するのか。

ここで敷島哲は言う
「俺はこれ以上誰も殺させはしないし、死なせもしない。あんたが妹のことをどう思ってるのかは知らないが、俺は川原鮎まであちら側の人間にするつもりはない」
と。

かくして川原鮎と敷島哲の最初の物語は橋の上で繋がった。
この物語は橋から始まり橋で終わる。
行きて帰りし物語は日常の世界に回帰することによって終わりを迎えるのである。
そしてエピローグへ。



悪意の伝道者、伝播と感染
ジャンピング・ジャック(流)の真の目的とはなんだったのであろうか?
学校裏サイトがそうであるように、悪意はインターネット上でいとも簡単に増幅され伝播し他者へと感染する。
透明校舎のカリスマ、ジャンピング・ジャックの作ったシステムは本当に武器なき者に武器をあたえ世界と戦うためにあったのであろうか?
強固で強大で凶悪な世界(システム)と戦うために作られたジャンピング・ジャック・ゲーム(システム)。
秩序(システム)を破壊するためのシステム。
少年少女を誘惑しタガを外させ破滅のトリガーを引かせようとする悪意の伝道者、闇の救済者こそがジャンピング・ジャックの正体ではないだろうか?
彼は家族に絶望し周囲絶望し世界に絶望し死にたかった。
だが、ただで死ぬのは面白くない。
世界に復讐しなくては。
そして彼女はその後継者として選ばれた。
彼は彼女に自分を殺させたかった。
そして殺され死んだ後もこのゲームを続けるために彼女を操り人形したかったのではないか。
ジャンピング・ジャック・ガールに。








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