レビューの中に、この作品の真相に触れる部分があります。未読の方はご注意ください。
そんなわけでmikio氏による『あゆてつシリーズ』の第二作目『スクール・マーダー・フェスティバル』のレビューです。
本作は実に様々な切り口をもったミステリで、多重推理に二重解決、倒叙に操りに至高のトリックと、mikioさんちょっと1作にネタを盛り込みすぎなんじゃない?欲張りすぎてない?次の作品のネタのストックとか大丈夫?と心配になるほどの詰め込みようで、お楽しみは多ければ多いほどイイというような貪欲な我々読者にとっては嬉しいかぎりの作品になっていますが、ところで皆さんは本作に3人の探偵が登場していたことには気づかれたでしょうか?
まず2人は簡単に出ますね。皆さんご存知の本シリーズの探偵である川原鮎と収束装置としての探偵役敷島哲の2人。そして実は本作にはこの2人に加えもう1人、3人目の探偵が存在していたのです。
私も2度目を読むまでは気づきませんでしたが、それは至高のトリックの「作者」から演劇を通して「読者への挑戦状(告発)」を受けた「読者(観劇者)」こと福屋教諭こそが本作における3人目の探偵だったのです。(ちなみにここで言う「読者への挑戦状」とは一般的なミステリで言うところの読者への挑戦状とは少し違い、推理するために必要なすべての情報や材料が出揃っているという訳ではありません。「作者」からの「お前の犯した犯罪を演劇に仕立てて告発した私の正体を当ててみろ」という挑発、文字通り作者から読者への挑戦状と言ったところです。)
なんで犯人の福屋教諭が探偵?と思うかもしれませんが、彼もれっきとした探偵なのです。なんせ生徒会室の議事録をあさるという「捜査」をして、神託抽選の謎をハウダニットからフーダニットに至る「推理」をおこない謎の脚本家の正体である生徒会長名取文香に迫ったのですから。これはもう本作においてはある意味鮎や敷島に並ぶ探偵といっても過言ではないでしょう。ただし福屋教諭の場合は脚本家名取文香からの誘導・操りを受ける駒となってしまうのですが(これはちょっと定かではないのですが、偽の証拠で探偵を操るのではなく、神託に実現が難しそうな案を書いて投票し、脚本家につながる証拠をわざと作って残しておくことで後に探偵(福屋教諭)を誘導するという仕掛けは後期クイーン的問題のパロディなのでしょうか?)。
さて第6章とDetective sideの二重解決で明かされる名取文香が仕掛けた「至高のトリック」とは「読者が犯人」というものでした。そしてその真の目的は自らの殺猫事件が生み出したコピーキャット(ダジャレだ!)である読者こと福屋教諭を操り自分を殺害させるという遠回りな「自殺」をすること。つまりは被害者自身が犯人にもなるわけです。そしてここに読者(福屋教諭)が犯人のバリエーションとして、探偵(福屋教諭)が犯人という要素までもがつくもんだからこれはもう凄いことです。
至高のトリックとは、読者(福屋教諭)が犯人=探偵(福屋教諭)が犯人=被害者(名取文香)が犯人という三重の意味がついたことになります。
これには海原雄山もビックリ!!福屋教諭の名前が士郎だけに!士郎だけに!と書いたところで力尽きました。そのうち本作の倒叙について考たことも加筆しようと思います。
<ジャンピング・ジャック・ガール 読了済み>
前作を読んだ者としては、最初の『幕間』から引き込まれます。
『あれ』は卑怯なぐらい効果的で、続きが気になってすぐに読んでしまいますよ。
『ジャンピング・ジャック・ガール』のときも思いましたが、読者に対する謎の見せ方が上手く、実にミステリーらしい作品です。謎を解く過程もしっかりしているため、ミステリー初心者の方でも楽しめると思います。登場人物の距離感など青春小説としても面白く、その部分だけ抜き出しても一つの作品として成立しそうなぐらいです。
主人公の『川原鮎』には物語をぐいぐいと引っ張っていく勢いがあり、そこにミステリーとしての『魅力的な謎』が加わることによって、最初から最後まで一気に読ませる力がある作品だと感じました。
途中でちょっとだけ引っかかる箇所がありましたが、それはたぶん私の考え方が一般的ではないためであり、むしろそこに引っかかったとしても作品の構造上何の問題も無いということに気付き、逆に感心してしまいました。ネタバレ禁止。
こんなの褒めているのに何で『星2』なんだと言われそうですが、これは前作の『ジャンピング・ジャック・ガール』と比べてしまったからです。これは近作が劣っているということではなく、前作がそれだけ良かったということです。前作を気にしないならば『星3』で、前作と一緒に評価するなら『星4』になります。
ややこしいですが、前作から読みましょうということで。
個人的にはプロが書いたと言われてもまったく驚かないぐらい面白いシリーズなので、青春ミステリー好きにはぜひお薦めしたい作品です。
生徒会で活動することになった主人公、鮎。しかし生徒会執行部が行う劇の演目決めのくじ引きでおかしな事が起こり、更には生徒会の意見箱に謎の脚本まで入っていて――。
リアルな人物造形に巧みな文章、そして謎が謎を呼ぶ展開。文化祭を舞台に青春の甘酸っぱさを味わえる、どこか切ない雰囲気のする青春ミステリーです。読んでいるうちにパズルが組みあがっていくみたいに真相がどんどん明らかになっていき、本当に上手いなあ、と読んていてため息が出ました。
個人的には鮎と敷島の絶妙な距離感と作品全体に漂うセンチメンタルな雰囲気が凄く好きです。
前作『ジャンピング・ジャック・ガール』のファンは勿論のこと、前作を読んでいなくても楽しめる作品です!
あゆてつシリーズ第二段。
シリーズとは言っても、この作品だけでも楽しめます。
(もちろん前作の『ジャンピング・ジャック・ガール』を読んでからの方が楽しめるのですが……)
主人公の鮎は生徒会に入り、文化祭で演劇をすることに。
しかし、題目を決める"神託"で誰かが不正をはたらいて……という内容です。
意外な犯人、緻密なロジック、どんでん返し。
過不足のないミステリーとして、とても楽しく読めました。
さらにそれだけではなく、読者を楽しませようという作者様の遊び心が隅々まで行き届いています。
全く飽きることなく読めました。
全体的に見ると、そこそこ重い話ではあるのですが、それを感じさせない文章。
さすがです。
キャラクターも相変わらず魅力的です。
鮎も敷島くんも応援したくなってしまう。
個人的には副会長が好きです。
何よりも"至高のトリック"です。
至高って、そんなハードル上げちゃっていいのか!?と思いながら読んだのですが、私もこのレビューでハードルを上げます。
でも大丈夫。
伏線などもきっちり仕掛けられているにもかかわらず、ラストには驚くこと間違いなしなので。
そんな"至高のトリック"に、あなたも騙されてみてはいかがでしょう。