概要
近未来、日本。
国境を越えて押し寄せた移民の波がこの島国に沈殿してから、すでに数世紀。
増え続ける移民問題、占領された領土。都市の縁には“自治区”と呼ばれる空白地帯が定着し、武器の密輸やテロが横行した。
その代償に、日本政府は軍を作った。 自衛隊の名を棄て、“国軍”として再編成された陸海空統合部隊。都市間を跨ぐ防衛出動権を付与され、戦時統制の下、邦人を奪還し武装勢力を鎮圧する任務に就く。
そして、国籍の無い移民を軍に編入し、最前線に投入した。
識別番号「D-02」。移民三世。
名もなく、居場所もなく、ただ命令に従うだけの、殺人兵器として育てられた青年。
軍内部でも迫害を受け、兵士としてすら廃棄された彼に、新たな地獄からの手が伸びる。
否応なく放り込まれたそこはーーよりによって、「軍医療
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!感情を持たない兵器が人間へと再生する物語!
この作品の主人公「D-02」は、当初、感情を持たない『機械』や『道具』として描かれています。
常にトップクラスの戦闘能力を誇り、暗殺、潜入、迎撃といったあらゆる分野で突出した能力を持ち、銃器の扱い、狙撃の精度は人並み外れたレベルでした。
しかし、その並外れた能力ゆえに周囲から冷遇され、凄惨な暴力を受けることになります。
この過酷な経験が、彼を「命の重み」を理解する兵士へと変貌させることになります。除隊後、彼は「死」ではなく「生」と向き合う道を選び、新たな部隊に所属することになり、「エデン」という名を得て、ただ命令を遂行する機械から、命を重んじる一人の兵士へと生まれ変わります。
彼の冷静…続きを読む - ★★★ Excellent!!!この命、まだ落とさない
命を奪う戦場から、命と向き合う戦場へ。
それは、方法こそ違えど、命に対しての戦いだった――。
テーマ性の持つ重さもさることながら、主人公の元兵士が「戦場で生きるコマ」から「人の命と向き合う者」へと、徐々に変化していき、心を取り戻していく様子が、実に心を打ちます。
そんな彼に与えられた名前も、彼の戦場での活躍からついた呼び名とは全く対照的なものとなっているのも、強烈なメッセージ性を感じます。
月並みですが、文字通り「生まれ変わった」みたいなものを感じます。
ある意味では、「彼女」は死んでいた彼の心をもこの世に引き戻した、とも言えそうです。
医療ものですが、難しい前提知識などは必要としません…続きを読む - ★★★ Excellent!!!その眼はもう、涙を知らない
戦うしか、生きる術を知らなかった。
兵士として育てられ、任務だけをこなしてきた少年兵「D-02」は、左眼を潰されたことで「戦力外」とされ、組織から切り捨てられる。
感情を押し殺し、痛みにも声を上げず、ただ命令に従い続けてきた彼に残されたのは、「居場所の喪失」だけだった。
だが――そのとき、電話が鳴った。
彼を「死神」と呼んだ声が、新たな地獄の扉を開く。
そこは、兵士ではなく「人間」としての名前を問われる場所。
殺すか、救うか。
何者として生きるかさえ、自ら選べと突きつけられる部隊だった。
「正しさ」など存在しない。
この物語は、命の価値を知ることもなく戦場に放り込まれたひとりの青年が、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!命を奪う黒い手が、守る命を抱く日
識別番号だけで呼ばれていた兵士が、名前を与えられ、戦場医療の世界でもがき、やがて存在しないと思っていた感情まで手にしていく物語。
殺すための機械として育てられた主人公が、“救う気持ち”を守るために人間臭く成長していく姿は、静かに、しかし確かに心に響きます。
戦場と医療が混ざり合う世界で、医療行為を“戦闘”の延長として描く筆致は、医療×ミリタリーというジャンルを新たな領域へと押し上げています。舞台は架空の近未来日本。物語に登場する患者の診療カルテまで設定として作り込まれた細部のこだわりも圧巻です。
主人公はもちろん、独特な名前と個性を持つ主要人物たちも魅力的で、物語に厚みを与えています。…続きを読む - ★★★ Excellent!!!手は生命の限界にいる人を引き戻し、足は人間の限界を一歩踏み越えた猛者達
読めば目を疑います。この状況は、というより、この者達は人間なのか?
上の問いは、他人の生命を救う人間に対して最悪の侮蔑です。しかし。
他人の生命を救う人間の精神が常識から逸脱している現実。
精神が常識から逸脱した人間でなければ生きて帰れない戦場の現実。
重心が安定していないと身体が倒れます。手で生命の限界にいる人を引き戻そうとしたら、足は身体を支えられるように人間の限界を踏み越えたところまで伸ばして踏ん張る必要があります。それだけのことです。
人を救う弥勒となるために、戦場で生き残る修羅となる覚悟。背反の極限を進む覚悟を決めた猛者達の振る舞いと言葉に、息を呑みます。
人が人でなくな…続きを読む