やる気のない公務員・田村智司は、副業でアンドロイドの修理をしながら日々を過ごしている。彼はある日、職場の回覧文書に掲載された『熊撃ち』への招集に応じる。『熊撃ち』といっても、撃つのは熊ではなく人間の手を離れて野良化したアンドロイドだ。8年前に死者を出した事故を起こしており、田村は彼らの真意が知りたいと考えて業務に参加したが、警察からの出向で参加する他の二人はそれぞれに思惑があるようで……。
本来直す側の人間でありながら、アンドロイドを撃つことになる田村の精神状態はとても不安定だ。さらに、アンドロイドに激しい敵意を向ける秋元や、何を考えているのかわからない昼行灯の高槻など、『熊撃ち』の同僚には不安をかき立てる要素ばかりが揃っていた。しかし、その言動にはいずれも意味があり、物語の前半は彼らが業務を通じて自らの問題と向き合うまでの人間ドラマが中心となる。そして後半では、『熊撃ち』に隠された本当の狙い、そして田村の抱える秘密が明かされていき、アンドロイド開発をめぐるスリラー小説のような趣きを帯びていく。ヒューマンドラマの繊細さとミステリ的な緊張感を兼ね備えた上質なSFスリラーだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)