かぎしっぽは気まぐれ屋

四谷軒

「たまり場」にて

 その場所は、私の家からそれなりに遠く、隣町とも言える。

 そこにある寺──古刹こさつは、弘法大師開基と伝えられている。

 その古刹は市の公園と、小さなやしろが隣にあった。

 おそらく稲荷神社と思われるその社は無人で、同じ敷地内にある家の人が管理というか、所有というか、そんな感じで佇立ちょりつしていた。

 古刹、公園、社、家という順に並んでいて、その場所――地域猫のは、主に社と家のあたりだ。

 ちょっと遠出になるけど、猫もいるので、娘を連れた散歩には最適だった。



 到着すると、娘は早々に猫のいる場所へ行ってしまった。

 見送った私は公園の真ん中にあるにれの木を囲む丸いベンチに座り、何かあったら声をかけなさいと言って、次回作の構想を練った。

 こういう時に頭の中だけで材料を探し、考えたことが化けることがあるので、けっこう好きな時間である。



 しばらくすると、娘が「かぎしっぽ、見つけた」と言って来た。

 黒っぽい感じのその猫は、しっぽが特徴的に曲がっており、だから「かぎしっぽ」だという。

 見ると、「かぎしっぽ」とおぼしきその猫は、社の土台部分をふらふら歩いており、その気ままなさまは、見ていてユーモラスだ。

 その歩みは、社の隣の家に向かっているようだ。

 娘と一緒にそのあとをつけてみる。

 十歩ぐらいあとをつけると、「かぎしっぽ」は家のうしろの室外機のあたりまで来た。

 ぴょんとんで、エアコンの室外機の上にくるくると回って、丸まって、鎮座する「かぎしっぽ」。

 かわいいと言って、娘は近づいてなでようとした。

 私は「待って」と声をかけて、娘を下がらせた。


 シャー!


 室外機の上の「かぎしっぽ」は、今までの無関心な態度をかなぐり捨てたように、背を丸めて立ち上がり、威嚇の鳴き声を上げた。

 娘はびっくりして、猫って気まぐれ屋なのと聞いて来た。

 いやいや、猫は高いところにいると気が立つ。だから近づかないようにと答えた。

 はあいとうなずく娘。

 すると、「かぎしっぽ」が室外機から下りた。

 それから何と、娘の方に寄って、にゃあんと鳴いて、なでてほしいアピールをした。

 どうやら気まぐれ屋なのは当たっていたらしい。


【おわり】

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