かぎしっぽは気まぐれ屋
四谷軒
「たまり場」にて
その場所は、私の家からそれなりに遠く、隣町とも言える。
そこにある寺──
その古刹は市の公園と、小さな
おそらく稲荷神社と思われるその社は無人で、同じ敷地内にある家の人が管理というか、所有というか、そんな感じで
古刹、公園、社、家という順に並んでいて、その場所――地域猫のたまり場は、主に社と家のあたりだ。
ちょっと遠出になるけど、猫もいるので、娘を連れた散歩には最適だった。
*
到着すると、娘は早々に猫のいる場所へ行ってしまった。
見送った私は公園の真ん中にある
こういう時に頭の中だけで材料を探し、考えたことが化けることがあるので、けっこう好きな時間である。
*
しばらくすると、娘が「かぎしっぽ、見つけた」と言って来た。
黒っぽい感じのその猫は、しっぽが特徴的に曲がっており、だから「かぎしっぽ」だという。
見ると、「かぎしっぽ」とおぼしきその猫は、社の土台部分をふらふら歩いており、その気ままなさまは、見ていてユーモラスだ。
その歩みは、社の隣の家に向かっているようだ。
娘と一緒にそのあとをつけてみる。
十歩ぐらいあとをつけると、「かぎしっぽ」は家のうしろの室外機のあたりまで来た。
ぴょんと
かわいいと言って、娘は近づいてなでようとした。
私は「待って」と声をかけて、娘を下がらせた。
シャー!
室外機の上の「かぎしっぽ」は、今までの無関心な態度をかなぐり捨てたように、背を丸めて立ち上がり、威嚇の鳴き声を上げた。
娘はびっくりして、猫って気まぐれ屋なのと聞いて来た。
いやいや、猫は高いところにいると気が立つ。だから近づかないようにと答えた。
はあいとうなずく娘。
すると、「かぎしっぽ」が室外機から下りた。
それから何と、娘の方に寄って、にゃあんと鳴いて、なでてほしいアピールをした。
どうやら気まぐれ屋なのは当たっていたらしい。
【おわり】
かぎしっぽは気まぐれ屋 四谷軒 @gyro
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