「お題で執筆!! 短編創作フェス」の3週目のお題は「つま先」。公式は何も考えていないか、ネタ出しに苦しむ作者たちを眺めて憫笑を浮かべるサド趣味の集団かのどちらかだと確信できるお題です。
一方、本作の作者である四谷氏は、このフェスでも1週目・2週目共に見事な短編を投下して読者を驚かせてくださいました。しかしそんな同氏でも、さすがに「つま先」は無理だろうなと考えておりました。
……甘かったです。この人、どれだけ歴史の知識の引き出しが広いの!?
今回の主人公は柳生宗矩。大河の主人公になったり一族が陰謀で千葉真一だったりとフィクションの題材には事欠かない将軍家剣法指南役ですが、この短編では史実や小エピソードがしっかり取り入れられています。そしてわずか2300字ちょっとの内容に、宗矩と沢庵和尚との友誼、主君にして剣の弟子である将軍・家光との関係が描かれていて、特に後者については爽やかな読後感を与えてくれます。
ですが何より恐ろしいのは、この短編、自主企画「同題異話・ほろ酔い幻想記」の参加の要件を満たしつつ、上述の短編創作フェスのお題「つま先」もしっかり描いていること。全く無理なく、話の中に自然に含まれる形での描写で、私は読み終えてから初めて「これ、『つま先』書いてるじゃん!」と気づいたくらいの自然体。私も一本取られた気分になりましたが、こんな一本ならいくらでも取ってください!