対談
――もう夜も遅いのに眠れない……
旅立ちの準備を早々に終え、明日に備えて早く床についたはずだが、いつもより遅い時間になっても全く眠くならない。
体が茹で上がる夜、風の音が残響する。ソールは行く宛もなくふらっと外にいた。
風と星影が混ざり出来る空気がこの上なく心地よい。
星空を仰いでいたソールは、どこかで見たことのある二人組に遭遇した。
「どうしたんだい少年、星空が綺麗すぎて眠れないのかな? それとも他に何かあるのかな?」
痛いところをつかれ、星夜は静寂を纏う。
「僕はね魔術師っていうのをやっているんだ」
「魔術師?」
「うん、魔術師っていうのは願いを叶えてあげるものさ。この前、妖精族の子から叶えて欲しいことを聞かせれちゃったんだ。どうやら、人族の男の子と喧嘩したらしくて仲直りがしたいって。その相手って君のことだよね?」
――魔術師? 願いを叶える? 話から推測するにバルサが?
魔術師と名乗る男が、急に話しだした内容に困惑し頭がパンクしそうになったが、冷静だった頭の一部分がかろうじて首を縦に動かした。
その動きを待っていたかのような顔をすると、魔術師は口を開く。
「やっぱりか、じゃあちょっと僕の弟子から話があるみたいだからちょっと付き合ってくれない?」
そういうと、そもそもそこにいなかったようにただ溶けていった。
――いやいや、あんたが言うんじゃなかったのかよ
面食らいながらもそう感じていると、彼の隣りにいた少女がジト目をしながらその男がいた場所をただ見つめていた。
そして一言、
「師匠がすみません、いつも気まぐれで…… 私の事はリーユって呼んで下さい。できればあなたの名前を教えてくれませんか?」
「う、うん、僕のことはソールって呼んで」
「わかりました。ソールさんは、あの妖精族の女性と何があったんですか? 私、師匠とあの女性が話していた場にいなかったもので」
「実は……」
あの日起きたことを、脳から剥がして正確に伝えた。
「そうね、私は仕方ないことだと思っちゃたわ」
脳に妙な振動が走る。
「私は師匠と一緒に今まで過ごしてきて何度も意見が食い違うことがあったわ。そう、あなた達みたいにね。だけど、私達はあなた達と違って同じ種族なの。同じ種族でも価値観の違いでいがみ合う瞬間を何度も見てきたし、経験してきたの。違う種族同士だったら更に価値観も異なる。だから私は、この前二人に起きたことは仕方ないことだって思っちゃったかな」
自分よりも容姿が一回り程幼いと思っていた少女から達観した言葉が飛んでくる。
恐らく、彼女の言う何度もという言葉は数回という意味ではなく、幾千万という意味だろう。
彼女の放つ言葉にそれほど重いものが込められているのが、爪先からでも分かる。
その感情と言葉に圧され彼の口と頭は動くのを止めた。
「ソールさんは、仲直りがしたいんですか?」
不意にその言葉が鼓膜に届いた時、止まっていた時が動き出した。
「出来るならしたいけど……」
「よく言った少年!」
先程消えた男の声が、凍りついた心にやけに伝わる。
「それが君の本心なんだよね? だったら自分のありのままの気持ちを伝えるしか無いじゃないか」
「師匠、肝心なところだけかっさらわないで下さい」
「僕に、自分の気持ちが言えるのかな?」
未だ不安なソールに男は一つ、
「じゃあ、僕が君に勇気を与えよう。僕はなんだって出来る魔術師なんだからね」
そう言うと、彼は指をパチンと鳴らした。
すると、白のオーラがソールの体を包む。
――これが勇気……体から何かが湧き出てくる
「君に、一粒の勇気をあげたよ。明日、頑張ってね」
「私からも、頑張ってください。応援しています」
二人が叱咤激励を放つとどこへ消えていってしまった。
――もっと話したかったな……いや、今は……
そんな事を思いながら、ソーラは月明かりを背に家路へと戻った。
彼の背中には、新たなステージへと旅立つための小さな翼が生えていた。
七色の魔術師は迷える羊の願いを繫ぐ つなまぐろ @tunanoisiwouktgisimono
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