ティラノアの悲劇 ②

 ステラリスが地上に近づくにつれ、その光と熱はますます強くなり、空が赤く染まっていく。そして、ついにその瞬間が訪れた。ステラリスは大地に激突し、巨大な爆発が都市や重要施設を壊滅的な状態に陥れた。


「ドン――!」という轟音が響き、地面が大きく揺れる。建物は炎に包まれ、大地は裂け、空は濃い灰色の煙で覆われた。


「ミサイルが撃たれたぞ!」

「衛星だけじゃないの!?」

「奇襲か!」


 市民たちは叫び声を上げながら逃げ惑う。母親が子供たちに叫ぶ。


「家族を探して!急いで!」

「こっちへ!こっちへ逃げるんだ!」


 十歳のカイル・エヴァンスは家族と共にリビングで過ごしていた。突然の衝撃で家が大きく揺れ、家族全員がパニックに陥る。


「カイル!マリス!早くシェルターに逃げるぞ!」

「あなた!」


 家族が混乱し叫び合う。カイルが叫ぶ。


「お母さん!お父さん!」

「カイル、こ!」


 母親が必死に手を伸ばす。

しかし、次の瞬間、天井が崩れ落ち、カイルの家族を押しつぶしてしまう。

瓦礫が降り注ぎ、家全体が崩壊していく。


「あ……母さん……父さん……」


 カイルは涙を流しながら叫ぶが、瓦礫の山の中で家族の姿は見えない。


「誰か、助けてください!」


 カイルの叫び声が虚しく響き、彼の周囲は完全に破壊されている。

カイルは恐怖で体が震え、逃げることができなかった。


「いやだ、こんなの嘘だ!」


 カイルは震え声で叫ぶが、周囲には誰も助けに来る者はいない。

カイルは瓦礫の中で助けを求め続けていたが、家族は応答しなかった。泣き叫ぶカイルの声が虚しく響く。


「お母さん!お父さん!誰か、助けて!」


 カイルは涙を拭いながら、力尽きそうな声で叫ぶ。

家族を失った悲しみと恐怖が彼を包み込み、涙が止まらなかった。


「アアアアアアアアアア!」


 カイルは声にならない声で呟き、涙を流し続ける。

瓦礫の山から這い出し、周囲を見渡すと、街全体が壊滅している光景が広がっていた。燃え上がる建物、倒壊した橋、そして瓦礫の中で助けを求める人々の叫び声が響き渡る。カイルはゆっくりと歩き出す。しかし、どこへ行けば良いのか分からず、ただ不安と恐怖が彼の心を支配していた。

 その時、一人の近隣住民が駆け寄ってきた。


「大丈夫か!」


 カイルはその声に反応し、目を見開いた。


「くそっ……、すぐにここから出ないと危険だ!」


 カイルは現実を理解できずにいた。


「でも、お母さんとお父さんが……!」


「君の両親は……もう」


 住民が言葉を詰まらせ、カイルを抱きかかえながら涙を流す。


「ごめん。君だけでも助けないと」


 カイルはただ泣き叫ぶしかなかった。

突然、銀色の機動兵ギアナイツがカイルに向かって迫ってくる。


「あれは……ギアナイツか!」


 その巨大なロボットは、冷徹に見下ろしていた。謎の襲撃者が現れ、周囲の生存者たちを次々と襲い始める。銀色のギアナイツの集団が、破壊と混乱を広げる。


「……!」


 カイルは恐怖で体が震え、逃げることができなかった。

その時、彼の隣にいた住民がカイルをかばうように前に立った。


「逃げろ……」


 住民はカイルに向かって叫びながら、襲撃者の銃口の前に立ちはだかった。


「お前はここから生き延びるんだ!」


 住民は決意のこもった声で言い、カイルを後ろに押しやった。

襲撃者は冷酷な笑みを浮かべながら引き金を引いた。次の瞬間、銃声が響き渡り、住民の体が弾かれたように倒れた。


「いやだ、こんなことって……」


 カイルは目の前の光景に絶望し、涙を流しながら呆然と立ち尽くしていた。

住民は最後の力を振り絞ってカイルに言った。


「生きろ……」


 その言葉がカイルの胸に深く刻まれた。住民は静かに息を引き取った。


「全員始末しろ」


 謎の人物が冷酷に命令を下す。


「お前もあの世に送ってやるよ」


 襲撃者の一人が冷酷な笑みを浮かべながらカイルに近づく。


「助け……」


 カイルは必死に命乞いをするが、ギアナイツが無感情に言い放ち、カイルに銃口を向ける。絶望的な状況に追い込まれていた、その時、黒いギアナイツが現れ、銀色のギアナイツに立ち向かう。


「!?」

「この機体、ティラノアの黒牛か!」


 襲撃者たちは驚き、混乱する。

トーマスの黒いギアナイツはシャープなラインと未来的なフォルムを持ち、各関節や装甲部分には精巧な歯車が露出し、その動きが視覚的に確認できた。頭部のデザインは騎士の兜を連想させ、メタリックな黒を基調とし、ゴールドやブルーのアクセントが光り輝いている。


 銀色のギアナイツは高出力レーザーライフルを構え、トーマスの黒いギアナイツに向けて発射する。しかし、トーマスはエネルギーシールドを展開し、レーザーを防御する。


「お前たちの好きにはさせない!」


 トーマスが叫び、シールドを解除して反撃に出る。彼のギアナイツはエネルギーブレードを振りかざし、銀色のギアナイツに迫る。

銀色のギアナイツはミサイルポッドを発射するが、トーマスは機敏に回避し、ブレイズルミナスを展開してさらに接近する。


「終わりだ!」


 トーマスは叫びながら、エネルギーブレードで銀色のギアナイツの動力部を一閃した。巧みな操縦技術で敵を翻弄し、次々と銀色のギアナイツを倒していく。

カイルは目の前の光景に驚きながらも、トーマスレイに救い出されたことに安堵する。


「大丈夫か、少年?」

「はい……」

「もう安全だ。俺が守ってやる。」


 トーマスレイはカイルを抱きしめ、彼を安全な場所へと連れて行く。

トーマスレイは銀色のギアナイツを倒した後、カイルに近づき、彼を守るために周囲を警戒する。


「一人か?」

「お父さんとお母さんが……」

「……そうか」


 トーマスは、周囲の状況を見て、何が起きたのかを察した。

カイルの目には決意と悲しみが入り混じっている。トーマスレイは頷き、カイルの肩に手を置く。その手は温かく、カイルに安心感を与えた。


「……復讐してやる!」


 カイルの声は震えながらも、その言葉には強い意志が感じられた。

トーマスレイは一瞬言葉を失い、カイルの目を真剣に見つめた。彼の心の中には、カイルの抱える深い悲しみと怒りが痛いほどに伝わってきた。


「君の決意は理解できる」


 トーマスレイの声は穏やかで、カイルを包み込むようだった。


「だが、その怒りをただの破壊に使ってはならない。君が強くなるために、その怒りを力に変えるんだ。」


 カイルは頷き、涙を拭った。

トーマスは、その瞳には新たな光が未来に向かって歩き出すことを祈った。



              *  *  *



 ステラリスが地表に近づくにつれ、その光と熱は一段と増し、周囲の温度が上昇していく。その光景はまさに天変地異そのものであり、ティラノア全土に響く轟音と震動が、人々に恐怖の実感を与えていた。


「時間だ」


 ギアナイツが撤退を始めた瞬間、ステラリスがついに大地に激突した。巨大な爆発が都市や重要施設を壊滅的な状態に陥れ、爆風と共に炎が空高く舞い上がり、まるで悪夢のような光景が広がった。


「衝撃波が来ます!」


「全員、衝撃に備えろ!しっかりつかまれ!」


 技術員が緊張した声で報告すると指揮官が命令を下す。


ドン――!


という轟音が街全体にこだまし、建物は次々と崩壊していく。炎は瞬く間に広がり、空には濃い灰色の煙が立ち込めた。瓦礫と化した建物の間からは、助けを求める人々の叫び声が絶えず響いていた。

ステラリスの破片は四方八方に飛び散り、その衝撃波が周囲の建物やインフラを次々と破壊していく。巨大なクレーターが生まれ、その中心には炎と煙が立ち込めていた。

瓦礫の山となった街の中で、人々は絶望と混乱の中にいた。誰もが何が起こったのか理解できず、ただ本能的に生き延びようとしていた。



              *  *  *



 ティラノア連邦は瞬く間に混乱の渦中に飲み込まれた。救助隊や復興支援チームが生存者の救助と復興に奔走するも、事態の収束には程遠かった。この未曾有の災害は「ティラノアの悲劇」として後世に語り継がれることになる。

謎のギアナイツ集団の目撃情報を基に、ノクターン帝国の軍事介入が疑われ、惑星連盟に対して調査団の派遣が要請された。しかし、混乱が続く中、状況は一向に改善しなかった。


 そして、惨事から三ヶ月が経過した頃、議長が被災地を訪問して復興活動を視察していた最中、再び事件が起こった。


「皆さん、この危機に対処するため――」


 議長の声が途切れた瞬間、銃声が鳴り響いた。


「議長!」


 市民たちはパニックに陥り、混乱が広がる。

暗殺者たちは議長を討ち取ると同時に、周囲の人々に次々と襲いかかり、周囲は一瞬で戦場と化した。襲撃者たちは組織的に連邦の主要施設を狙い、混乱と破壊を広げていった。


「敵襲!」


「ノクターン帝国だと!?」


 連邦の防衛隊が叫びながら必死に応戦する。


「避難場所を確保しろ!市民を守れ!」


 隊員たちが叫びながら市民を避難させる。市民たちは混乱し、恐怖に震えている。


「何が起きてるんだ!?」

「ノクターンが攻めてきたってことだろ!」


 巨大なホログラムがティラノア連邦の主要都市の空に映し出された。そこに現れたのは、ノクターン帝国の皇帝であった。彼は冷酷な笑みを浮かべながら、威圧的な声で宣言を始めた。


「ティラノア連邦の市民よ、我がノクターン帝国は貴国に対し、正式に宣戦を布告する。この瞬間より、我々は全力をもって貴国を制圧し、我々ノクターンの秩序をもたらすであろう。」


 市民たちはその光景に驚き、恐怖に震えた。ホログラムの映像は、ティラノア連邦の政府中枢をも揺るがすものであった。

 宣戦布告が終わると同時に、ノクターン帝国の電撃作戦が開始された。帝国軍の機動兵ギアナイツが空を駆け抜け、主要都市や軍事拠点に向かって突進する。その姿はまるで黒い嵐のようであり、都市全体を覆い尽くした。


「ノクターン帝国軍、出撃せよ!」


 指揮官が冷徹な声で命令を下すと、ギアナイツは一斉に動き出した。


「敵拠点を制圧しろ!」


 ギアナイツは高出力レーザーライフルを構え、ティラノア連邦の防衛施設に向かって発砲した。その一撃で防衛線は瞬く間に崩れ去った。


「進軍を止めるな!」


 帝国軍は機動力を活かして次々と攻撃を仕掛け、連邦軍の指揮系統を混乱させた。

同時に、ノクターン帝国のサイバー攻撃がティラノア連邦の通信網に対して行われた。重要な情報が妨害され、連邦軍の指揮と統制は大きく揺らいだ。


「通信が途絶した!どうなっているんだ!」


 連邦軍の指揮官が焦燥感を隠せない声で叫ぶ。


「全システムがハッキングされています!これ以上の指示は不可能です!」


 技術者が青ざめた顔で報告する。


 さらに、ノクターン帝国は心理戦を展開し、市民たちに恐怖と無力感を植え付けた。偽情報が流布され、連邦政府や軍の信頼性は急速に低下していった。

ノクターン帝国は多方面から同時に攻撃を仕掛け、ティラノア連邦の防衛リソースを分散させた。主要都市や戦略的拠点が次々と制圧され、連邦軍は効果的な反撃を行うことが困難になった。


「敵がどこにでもいる!我々の防衛はもう持たない!」


 連邦軍の兵士たちは絶望的な状況に追い込まれていた。


「ティラノアの終わりだ……」


 市民たちは恐怖に震え、逃げ惑うしかなかった。

その後、ノクターン帝国の電撃作戦は迅速かつ圧倒的な攻撃により、ティラノア連邦を瞬く間に支配下に置く。戦略的拠点は次々と制圧され、政府は機能不全に陥る。そして、首都ホワイトハラルドは陥落に追い込まれていた。


 その混乱の中、議長の十二歳の娘アリアと彼女の忠実な側近ルーカスは、拠点の防衛が崩壊する中で脱出を決意する。暗闇と煙に覆われた拠点を駆け抜け、二人は命からがら脱出した。


「アリア様、急いでください!ここはもう安全ではありません!」


 ルーカスが焦燥感をあらわに叫ぶ。


「国民の命を見捨てろっていうの!」


 アリアは涙をこらえ、決意を固める。


「今は生き延びることが最優先です!」


 ルーカスはアリアを励まし、共に暗い夜の中を走り出す。


「でも、どこに行けば?」


 アリアは不安げに問いかける。


「まずは、首都を出て、ラヴァニティ領へ向かいます!」


 ルーカスがアリアの肩を抱きしめて言う。

炎の光が背後で踊り、遠くからは人々の悲鳴が響いてくる。

アリアは心の中で父の言葉を繰り返し、自分に言い聞かせる。


「ティラノアを守れ。生き延びて、希望をつないでくれ」


 父の声が、彼女の胸に響く。


「必ず私がティラノアを取り戻す」


 彼女はその胸に抱く使命と共に、ノクターン帝国の圧政に立ち向かうための新たな一歩を踏み出した。 市民たちは恐怖と絶望の中で暮らし、ノクターン帝国の厳しい支配下で生活を余儀なくされていた。しかし、ティラノアで生き残った市民たちもまた、希望を捨てずに戦い続けていた。彼らの名は「セレスティアル」。


彼らの決意が交錯するのは必然だったのだろう。

この物語は、まだ始まったばかりだ――。

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ギアナイツ・クロニクル 新米 @mad982sousen

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