じわじわ迫りくる恐怖。悲しみをたたえたモダンホラー
- ★★★ Excellent!!!
「このさき危険 立ち入り禁止」
どこにでもありそうな注意書きの看板が、一歩一歩、不気味で異様な物語へと読者を誘います。『空白』は、淡々と進む筆致の中に、深い悲哀と恐怖を湛えたモダンホラー作品です。その静かな迫力と緊張感に、ページをめくる手が止まらなくなることは間違いありません。
主人公が入る京都府北部の山。最初は何の変哲もない山道ですが、進むごとに嫌な予感が募り、空気が徐々に変わっていく様子が淡々と描かれます。
徐々に明らかになっていく過去。この山で起こった出来事、そして「松茸」の意味が明らかになるにつれ、読者は物語の背後に広がる深い悲哀と恐怖を知ることになるのです。決して直接的な惨劇が描かれるわけではありません。しかし、その「まだ何も起こっていない」という状況がかえって想像力を刺激し、余計に心をざわつかせます。
タイトルの『空白』が指し示すものは、読み終えるまで明確には分かりません。しかし、その意味が明らかになったとき、物語全体を覆う静かな悲しみと虚無が、一層深く胸に迫ります。じわじわ響くモダンホラーをお楽しみあれ。