闇の中に穏やかに差し込む月の光のような
- ★★★ Excellent!!!
19歳の結月といとこの陽太、「普通ではない」と自ら語る二人の姿を通して描かれるのは、青年期特有の鬱屈した感情と、その先に見える一筋の光です。繊細な筆致で心の奥底を描き出し、読後に映画を観終えたような充実感を与えてくれます。
いとことはいえ成人の恋人ではない男女が一つ屋根の下共同生活を送る状況。自己嫌悪に苛まれる結月の姿と、陽太の距離感は、一見すると独特で特異なものに思えます。しかし、物語が進むにつれ、この二人の関係性や感情の揺れ動きがどれも細やかに、そして普遍的に描かれていることに気付かされます。結月と陽太が抱える「普通ではない」とは、むしろ青年期に多くの人が経験する内面的な葛藤や、不安定な自己像の象徴ともいえるのではないでしょうか。
結月がバイト先の同僚・赤木の誘いで合コンに参加する場面は、物語の転機となる重要なエピソードです。物語は鬱滞と閉塞感の中から、爽やかなラストシーンへと向かいます。閉塞感を抜け出す希望は、読後には心地よい余韻をくれます。
本作の魅力は、その細やかな心理描写にあります。青年期特有の曖昧さや、何かを掴みたいけれど掴みきれないもどかしさの描写が秀逸です。丁寧な描写をたっぷりと味わいたい方に、ぜひ手に取ってほしいおすすめの短編です。