大切だからこそ、見せ合うのに躊躇してしまう、不思議な『箱』のお話
- ★★★ Excellent!!!
本作はちょっと不思議な世界観の中で繰り広げられる、等身大の高校生カップルの恋愛模様を描いたラブストーリーです。二人が抱える「箱」とは、ただの道具ではなく、思い出や感情が詰まった大切な存在。そして、この物語の鍵でもあります。
一見奇妙に思える「箱」という設定ですが、物語が進むにつれ、それがとても自然なもののように感じられるのは、登場人物たちの描写が丁寧で巧みだからこそです。主人公と彼女の会話や行動には、思春期特有の不器用さや、相手との距離感を測る微妙な緊張感があり、それがリアルで惹き込まれます。
ざっくり言ってしまえば、箱を見せ合うことへの葛藤が描かれるわけですが、この行為が、ただの儀式やイベントではなく、相手に自分の「中身」を見せるという深い意味を持つからこそ、彼らの関係の進展がより繊細で、心を打つものになっています。また、この箱はやっぱり『箱』でしかないのですが、何を表しているんだろう?と考えたり、もし自分にも箱があったらと想定したり、なかなかに哲学的な余韻をもたらしてくれる設定でもあります。
奇抜な設定に見えながらも、丁寧に紡がれた人間ドラマによって、「こんな世界が実在してもおかしくない」と思わせる本作。その巧みな描写力には、驚かされると同時に深く感動させられます。
ラブストーリーが好きな方はもちろん、ちょっと変わった設定の中でリアルな人間関係を楽しみたい文芸好きな方にもおすすめです。穏やかな筆致と余韻が心地よく、読む人に優しい感動を与えてくれる素敵な物語です。ぜひ読んでみてください。