本作はちょっと不思議な世界観の中で繰り広げられる、等身大の高校生カップルの恋愛模様を描いたラブストーリーです。二人が抱える「箱」とは、ただの道具ではなく、思い出や感情が詰まった大切な存在。そして、この物語の鍵でもあります。
一見奇妙に思える「箱」という設定ですが、物語が進むにつれ、それがとても自然なもののように感じられるのは、登場人物たちの描写が丁寧で巧みだからこそです。主人公と彼女の会話や行動には、思春期特有の不器用さや、相手との距離感を測る微妙な緊張感があり、それがリアルで惹き込まれます。
ざっくり言ってしまえば、箱を見せ合うことへの葛藤が描かれるわけですが、この行為が、ただの儀式やイベントではなく、相手に自分の「中身」を見せるという深い意味を持つからこそ、彼らの関係の進展がより繊細で、心を打つものになっています。また、この箱はやっぱり『箱』でしかないのですが、何を表しているんだろう?と考えたり、もし自分にも箱があったらと想定したり、なかなかに哲学的な余韻をもたらしてくれる設定でもあります。
奇抜な設定に見えながらも、丁寧に紡がれた人間ドラマによって、「こんな世界が実在してもおかしくない」と思わせる本作。その巧みな描写力には、驚かされると同時に深く感動させられます。
ラブストーリーが好きな方はもちろん、ちょっと変わった設定の中でリアルな人間関係を楽しみたい文芸好きな方にもおすすめです。穏やかな筆致と余韻が心地よく、読む人に優しい感動を与えてくれる素敵な物語です。ぜひ読んでみてください。
作中の「箱」。
個人の思い出がどんどん貯まっていくもの。開けて中身を晒せるもの。ふつう人目からは隠しておくものだが、大切な人には見せられるもの――
「箱」は、途中まで何かの象徴のように見えます。
けれど物語の途中、ある事実が発覚した時点で、感覚が大きくひっくり返ります。
それは本当に「箱」で、物理的に存在したりしなかったりする何かで、あったりなかったりすることで周りにどうしようもなく影響を与える、何かとして立ち現れてくる。
くれはさんの別作品に「あの夏、サイトウは花火になった。」という短編がありますが、あちらも「花火」を何かの象徴のように描きつつ、でも物理的にどうしようもなく花火……という、象徴性と実在性のないまぜになった様子に幻惑されるお話でした。
本作も、「箱」の象徴性と実在性が混ざり合う、絶妙な幻想物語です。
この不可思議な混合、くれはさんにしか出せない妙味だと思います。
楽しく読ませていただきました!
親にも見せることが恥ずかしい箱を、見てもらいたい。見せて欲しい。
その箱は、満たされても、まだ足りないと言っている。
ところが、彼女は「怖い」と言った。僕は彼女を大切にしたかったので、辞めた。
やがて何気ない日常の時でも、「ごめんなさい」と気を遣う彼女。僕は自分のことばかりで彼女を傷つけたのだと悔いた。
ところがある日、彼女は自分の箱を見せる。そこで僕は、驚いた……。
好きだからこそ、知って欲しい、知って欲しくないことがあって、ありのままの自分が後ろめたくもなる。
それでも、自分ですら受け入れられない箱を、それごと受け入れてくれる人がいるのなら。
きっと誰もが胸の中には、大切な思い出をいつまでも持ち続けるための「箱」を持っています。これは、その箱が実際に取り出して見られる世界のお話。
恋人を大切に思う主人公は、ある時自分のその箱を恋人に見てほしいという思いに駆られ、緊張しながら見せます。そんな彼の箱を見た恋人は微笑んでくれますが、彼女はお返しに自分の箱を見せようとして……。
心が形になって、誰かに見せられたら素敵だな、と思いながら読み始めた私は、読み進めるうちに言葉を失いました。
同時に、ひたむきに恋しあう彼らの姿が愛おしくて、その幸せを祈らずにはいられません。
誰かと真剣に向き合うことを、最近忘れているかもしれない、と思う人にぜひ読んでほしいです。
「箱」はあなたの大切なものです。「箱」はあなた自身です。「箱」は気軽に見せてはなりません。「箱」はあなたの恥部であり、もっとも大切なところです。
主人公が大切な人と関係を築きあっていく中で「箱」を見せたい衝動に駆られます。そしてある日、見せます。見せられた大切な人……恋人の女の子は、やがて……?
心が温かくなるのと同時に、引き締められる思いのする作品でした。きっと大切な人との関係の築き方の勉強になっているのでしょう。焦らず、相手のペースを大切にしつつ、でも自分の気持ちも大切に。
人の愛し方、それを学んだ気がする作品でした。