何かの象徴のようでありつつ、どうしようもなく「箱」である、絶妙な存在感
- ★★★ Excellent!!!
作中の「箱」。
個人の思い出がどんどん貯まっていくもの。開けて中身を晒せるもの。ふつう人目からは隠しておくものだが、大切な人には見せられるもの――
「箱」は、途中まで何かの象徴のように見えます。
けれど物語の途中、ある事実が発覚した時点で、感覚が大きくひっくり返ります。
それは本当に「箱」で、物理的に存在したりしなかったりする何かで、あったりなかったりすることで周りにどうしようもなく影響を与える、何かとして立ち現れてくる。
くれはさんの別作品に「あの夏、サイトウは花火になった。」という短編がありますが、あちらも「花火」を何かの象徴のように描きつつ、でも物理的にどうしようもなく花火……という、象徴性と実在性のないまぜになった様子に幻惑されるお話でした。
本作も、「箱」の象徴性と実在性が混ざり合う、絶妙な幻想物語です。
この不可思議な混合、くれはさんにしか出せない妙味だと思います。
楽しく読ませていただきました!