本作『家電の替え時に』の中心にあるのは、AIメイドである「私」と、わがままで愛すべき「お嬢様」との奇妙で深い絆。物語を通じて、お嬢様にとって、ロボットが単なる「道具」や「家電」を超えた存在であることがわかる仕組みになっています。
読後の感想は、「なんでもっと早く読まなかったんだろう」でした。主人公「私」の皮肉たっぷりの語り口は軽快でありながらも、その行動や選択には心を打たれるものがあります。お嬢様の「クソガキっぷり」がユーモアたっぷりに描かれている点も、この物語の魅力を際立たせています。
個人的に好きな、製鉄所を活かした攻防戦は、熱さと迫力に満ちた名場面。AIならではの冷静さや計算高さが活かされた描写は緻密で、物語の緊張感を一層高めます。そして、そこにファジーな知恵や絆・愛情で対抗していく人間。逃避行の中で描かれる「私」とお嬢様の信頼関係には、深い感動を覚えます。
SFにおいて「自らを家電・機械ととらえるロボット」という設定はよくありますが、この物語ではその設定を王道として昇華させています。。本作は、人間とロボットの絆や葛藤を描く物語として、幅広いSF好きの読者におすすめできる作品です。ユーモアと緊迫感が織り交ぜられた展開は、スクロールする手を止められなくなるほどの魅力を持っています。『家電の替え時に』は、未来の技術や社会を考えさせるだけでなく、人間らしい感情や信念の大切さを教えてくれる一編。限られた時間でぎゅっと詰まった感動を届けてくれるこの物語を、ぜひ手に取ってみてください。